第3章 soundless voice
それからというもの、俺は部活や受験勉強の合間に病院に足を運ぶようになった。
外に出られないにその日あった事や面白かった事を話す。するとは満面の笑みを浮かべるんだ。
病気で苦しいはずなのに、一人で寂しいはずなのに、いつでも『大丈夫だよ』と笑って全く弱音を吐かなかった。
俺より小さいその体のどこにそんな力があるのかと、不思議に思うくらいは強かった。
の病が進行したのは、二学期が始まった頃。
いつものようにお見舞いに行き、『水が欲しい』と言ったにコップを渡した瞬間――
ガシャン!! と大きな音をたてて、手からコップが滑り落ちた。
「あ……孝ちゃんごめんね、手が滑っちゃって……水かからなかった?」
「……大丈夫。それよりは大丈夫か?」
「うん。……大丈夫じゃないかも……ベッドが」
「あ~……看護師さん呼んで来るからちょっと待ってろよ!」
部屋を出た俺は看護師さんに事情を説明した後、の部屋に――戻らなかった。
今はただ独りになりたい。
病院の屋上まで駆け上がって、肩で息をしながら壁に寄り掛かり、ずるずると座り込む。
その途端、溢れた涙が頬を伝った。
は嘘をついていた。
手が滑ったのではなく、力が入らなかったんだ。
今までそんな事は無かったのに。
何も変化がなかったから病気は進行していないものだと思っていた。
けれどもそれは淡い幻想で、に巣くう病は今でもを蝕み続けていたんだ。
『と過ごせる時はもう、少ないのかも知れない』
それに気付いた途端、涙が込み上げてきて止まらなくなった。
「置いていくなよ……独りにするなよ……」
泣きながら口からこぼれたのは、そんな弱音ばかり。
が病気になってから泣いてばかりだなぁ……
俺はいつからこんなに弱くなってしまったのだろうか。