第3章 soundless voice
寒さが厳しくなってきた12月――
もはや日課になったアイツのお見舞い。
今日も通いなれた道を通り、いつものように白い扉の前に立つ。
~♪~♪~♪~
扉の向こうから懐かしい歌が聴こえる。アイツの小さい頃のお気に入りで、繰り返し歌っていた曲だ。
ずっと聴いていたい気持ちを押さえて扉を開く。するとゆったりと流れていた歌は途切れ、
「孝ちゃん、今日も来てくれたんだ?」
そこにだけ春が来たのではないかというほど、暖かくて優しい笑顔と声が響いた。
。
記憶が無いほど幼い頃から一緒に育ってきた、いわゆる幼なじみ。
小さな太陽の様なあったかいヤツで、楽しい事があれば一緒に笑い、辛い事があれば励まし、悲しい事があれば慰めてくれた。
俺の隣に居るのが当たり前。それがこれからも続くと思っていた。信じて疑わなかった。
それなのに――
俺が思い描いていた、甘い夢の様な考えは
いとも簡単に壊された。
中学三年に進学した春、は倒れた。それは少しずつ五感が麻痺して、やがて死に至る原因不明の病で、有効な薬は見つかっていない。
急な事だった。
だって、は体は強い方で、一緒になって走り回っていたし、めったに風邪を引かなかったのに。
何故? どうして?
疑問だけが頭をぐるぐると回り続ける。
なんでが――
どうして? どうして?
心の中で、叫べども……叫べども……
答えは出ずに、ただ泣くことしか出来なかった。