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あいことば

第1章 あいことば





「格好良い高校生がいるなって、いつも見掛けてたので覚えてたんです。その制服、海常ですか?」
「…っそうッス!あ、俺、海常高校一年の黄瀬涼太ッス!」
「わ、高校一年生なんだ。背高いし大人っぽいからもっと上かと思いました。」
「あー、たぶんバスケやってるんで、背が高いのはそれでだと思うッス。で、お姉さんの名前は?」
「え?私?」

さり気なく自己紹介を交えると、彼女は明るい表情で応対してくれた。でも、俺が求めていたのは彼女自身の自己紹介で。サラリと流されてしまった事に軽くショックを受けながら再度聞くと、切れ長気味の目をパチパチとさせながら、薄く笑って言ってくれる。俺が知りたかった、彼女の名前を。

「中山めぐみです。ちなみに21歳。一応社会人で、会社勤めしてます。」
「中山さんっスね!俺も毎朝同じ電車なんで、乗ってるのは知ってたんス。」

うそ。知っているどころか、あなたに恋をしている俺がいる。そんな自分をひた隠しながら、楽しい談笑に花を咲かせていく。見た目より取っ付きやすい性格の彼女は笑顔で会話をしてくれて、俺は上機嫌だった。楽しい時間はあっという間で、そろそろ彼女が降りていってしまう駅だ。焦った俺は、不自然にならない程度にすっと彼女に一枚のメモを差し出した。

「これ、俺の連絡先ッス!あの、暇な時で良いんで、連絡待ってるッス!」

咄嗟の事にビックリする彼女の手にサッとそのメモを握らせて、その手の小ささと腕の細さに俺もビックリしてしまう。駅に停車した電車のドアが開くと同時に彼女も我に返ったのか、何度か口を開きかけてから急いで身支度を整え、ドアが閉まる前にと急ぎ足で去って行く。

「あ、ありがとう。またね。」

その言葉をリフレインさせながら、小さな後姿を見送る。あまりにも華奢なその姿を抱きしめたくなる衝動を、必死に抑えながら。


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