• テキストサイズ

あいことば

第1章 あいことば





目を見開いた中山さんを目の前に、俺は震える唇で想いを紡ぐ。初めて恋に落ちたこと、初めて一目惚れをしたこと、中山さんを好きになって2ヶ月が経つこと。そんな、俺がどれだけ中山さんを好きで真剣なのかという想いの丈を伝える事すらままならず、ただひたすらに好きだってことしか言えなかった。それが、今の俺の精一杯だった。

「…あ、ありがとう。気持ちは、すごく、嬉しいよ。」
「俺と、付き合ってくれますか。」
「………。」

絞り出したような俺の声に、言い淀んだ中山さんは俯いてしまった。喉が、カラカラに乾いていた。数秒後に僅かに顔を上げたけれど視線は下の方を彷徨っていて、俺の視線とはかち合わない。小さい身長ながらもいつも俺と話す時は目を見て話してくれた中山さんらしくないと、思った。だからかもしれない。その次に続く言葉が、きっと否定的なんだろうと直感したのは。

「…ごめんなさい。」
「………、」
「気持ちはすごく、嬉しい。本当に。でも、付き合えない。ごめん、ね。」

やんわりと、縋りつくような俺の手を解いて、中山さんは俯き加減に言った。理由とか、俺の事をどう思っているのかとか、聞きたいことはたくさんあった。でも、断られたことが何よりも一番衝撃的でショックで、何も考えられなかった。別に中山さんも俺を好きでいてくれるとか、相思相愛だとか、そんな甘い考えを浮かべていたわけじゃない。告白をしてしまったのは自分の中でも計算外だったけれど、肯定してもらえると思っていたわけじゃない。でも、相手になってくれる、メールを返してくれる、休日に会ってくれる、我儘を聞いてくれる、そんな中山さんにこれっぽっちも期待をしていなかったというのは、嘘だった。多少なりとも脈はあるかもしれないと自惚れていたのだ。結果は、この通りだったが。


/ 20ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp