第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「何故私なんですか?私より強い人は沢山居ると思うんですけど……」
実力で言えば自分などよりも相応しいと思える人はこの場に何人も居る。
少なくとも、自分などより紅炎の方がよっぽど相応しい。
「強さと言うのは単に力量の話だけでは無い。この部屋に来る前、何も無い部屋が有っただろう。」
「有りましたけど…」
「その部屋で、我は其方の心の内を見ていた。まあ、其方に限った話では無いがな。」
その言葉に、莉蘭の瞳に恐怖が宿った。
それはあの孤独な部屋を思い出したからなのか、それとも人の心を読むと言う得体の知れない力を怖れたからなのか。
ただ単純に自分の弱味を握られた様に感じただけかも知れない。
「案ずるな。其方は自分の弱さを知っている。それは弱味でもあり、強さでもある。」
そう言った空色の瞳は穏やかで、その柔らかな視線が彼の心の内を語っているように思えた。
気がつけば、先程の恐怖は消えていた。
「我は争いを好まん。然し弱い者も好まん。何より、其方のその純粋なルフが気に入ったのだ。」
争いが嫌いなのに弱い人も嫌いとは、彼は中々に傲慢な精霊の様だ。
「我が主よ、名は何と言う。」
エリゴスにそこまで言われても、莉蘭は未だ釈然としなかった。
エリゴスは既に自分を主人にと決めてしまっている様だが、当の本人は未だ納得していない。
確かに、紅炎や紅覇は強くても好戦的だし、紅明も金属器を持ってはいるが強いかと問われれば答えは否である。
それに比べれば自分は争いを好まないし、それなりに武術も出来る。
ルフが気に入ったと言われればそれまでだが、それでも、そんなに簡単には了承出来ない。
何より、自分は人の上に立つような、延いては王になるような人間だとは到底思えないのである。
然しエリゴスも一度決めた事を曲げる様には見えず、困り果てた莉蘭が紅炎の方を見ると、彼も此方を向いていた。
紅炎だけではない。
その場にいた全員が莉蘭を見ていた。
「何を躊躇う。」
「ですが、」
「奴はお前を認めたんだろう。」
「……。」
紅炎にそう言われてしまえば何も反論は出来なかった。