第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
______王になるのは誰だ______
暫く経ってもその問いに答える者は居なかった。
それは何故か。
この場には元々金属器を持っている者が三人も居て、誰もがその中から選ばれると思っているからだ。
そして、その三人の中で一番有力なのは紅炎。
実力的に考えれば彼が名乗りを上げるべきなのだ。
然し何か思うところが有るのか、当の本人は一言も発さずにジンを見ていた。
と言うより、怖い顔をして睨んでいた。
ジンは溜息を吐いて辺りを見回すと、面倒くさそうに口を開く。
「これまた面倒な奴等が来たものだな。此処まで来て黙りとは。」
エリゴスと名乗るジンは腕を組むと眉間に皺を寄せた。
声からして男性だろう。
ジンには動物の姿をした者も居ると聞くが、彼は人型の様だ。
青い体に白い髪、鋭い牙と爪、逞しい腕や脚には白い模様が浮かんでいる。
それらは莉蘭に先程の虎を連想させた。
「誰も居ないのか。ならば我が決めよう。」
エリゴスは辺りを一度見回すと、莉蘭を指さして「其方だ」と言った。
莉蘭は一度後ろを振り返り、周りの様子を伺う。
皆此方を呆然と見ていた。
何が起きているのか分からない、と言った表情だ。
然し一番何が起こっているのか分からないのは当の本人である。
莉蘭は自分に人差し指を向けると、数回瞬きを繰り返した。
「わたし?」
その問いに、エリゴスは静かに頷いた。
その辺りになって漸く周りの人達が我に帰ったらしく、ざわざわとした空気が広がっていく。
その頃の莉蘭はと言うと、混乱を極めている脳内を整理するのに必死だった。
何故自分なのか。
如何して自分なのか。
考えても考えても、一向に答えは出てこない。
それもそうだ。
何せ相手はあの伝説のジンなのだから。
分からなくても仕方ない。
寧ろ考えても仕方ない。
…もういいか。
考えるより聞いた方が良さそうだ。
そんな感じで早々に考えるのを止めた莉蘭であった。