第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
莉蘭はエリゴスに向き直ると、意を決して名を告げる。
「私の名は、莉蘭です。」
「莉蘭…金属器となる器を差し出せ。」
そう言われて莉蘭は自分の体を探った。
まさか自分が金属器使いになるなんて思ってもみなかった為、現在身に着けている金属製の物は剣かイヤリングくらいだ。
金属器の器には普段見に着けている物が良いと聞く。
それを踏まえると、城内では持ち歩かない剣はあまり向かないだろう。
莉蘭は右耳にふれると、イヤリングを外して目の前に掲げた。
「これは?」
差し出した手の中をエリゴスが覗き込む。
「ふむ。それは少々特殊な物のようだ。器にするのは避けた方が良いだろう。」
そう言われればそうだった、と莉蘭は苦笑を溢した。
この笛はこの世に二つと無い特別な物だと、ミュラから貰った時に聞いていた様な聞かなかった様な。
いろいろあって忘れていた。
「じゃあこの剣は?」
「そう無理して選ばずとも良い。最初にそれを差し出さなかった時点で何か思うところが有るのだろう?」
「普段持ち歩けない物なので、やめた方が良いかな、と。」
「確かにそうだな。他に何か持っておるか?」
莉蘭は一通り考えて探してみたが、矢張り何も持っていなかった。
「何時もの髪飾りは如何したんです?」
「傷が付くのが嫌だったので、置いて来てしまって…」
莉蘭がそう答えると、尋ねた紅明は一瞬驚いた顔をして溜息を吐いた。
…それは何の溜息なんだ。
「すみません。他に何も…」
「気にするな。ならば…そこの指輪にするとしよう。」
エリゴスは辺りを見回し手頃な大きさの指輪を見つけると、魔法か何かで宙に浮かべて莉蘭の前に移動させた。
手を差し出すと指輪は掌の中に落ちる。
莉蘭はそれを掌の中で転がし、角度を変えて眺めた。
幅のある金色の輪に赤い宝石が埋め込まれただけのシンプルな代物だったが、仕事は丁寧である。
女性用なのか少し小さめだが、莉蘭には丁度良さそうだった。
「我が主、莉蘭よ。我は其方のジンとなり、力となろう。如何なる時も其方の側に……」
エリゴスはそう言うと指輪の中に吸い込まれていった。
赤い宝石の中に金色の八芒星が刻まれる。
殆ど時を同じくして、部屋全体が光に包まれていた。