第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
少しして震えは止まり、莉蘭は掴んでいた紅炎の服を離した。
恥ずかしくて顔を見ることが出来ず俯く。
冷静になってみて、男の人に、然も紅炎に抱きついてしまったという事実に直面したのだった。
やってしまった、と内心で溜息を吐いた。
何時もの自分なら紅炎が背に手を回した時点で逃れているし、そもそも、抱きついて行ったりしない。
何故こうも感情的になり易いのか。
ちょっと自分の気持ちに素直過ぎるだろう。
「…すみません。」
「もういいのか。」
紅炎がそう問うと、莉蘭は力無く笑って「はい」と答えた。
何があったのかと聞いても、莉蘭は首を横に振るだけで答えようとはしなかった。
本人は何も無かったと否定している積りなのだろう。
誰が見ても、先程の表情は何かあった顔だと言うのに。
然し、気丈に振る舞う莉蘭に、紅炎はそれ以上何も言わなかった。
「……。」
「あ、あの、放して下、さい…」
自分から抱きついておいてこう言うのも何だが、そんなに無言で見られると流石に耐えられない。
莉蘭が小声で言うと、直ぐに解放された。
「えっと、紅炎様は如何やって此方に?と言うか、あの時何があったんでしょうか?」
「ん?食人植物に食われたんだ。」
「え。」
紅炎の話によると、食べられた先が部屋になっていて、その部屋には扉は無かったらしいが、この部屋と似た様な所に運ばれたのだとか。
そのまま暫く探索しているとまた植物が現れて、再び食べられるとこの部屋に出た、とのことだった。
如何やらあの植物が部屋と部屋を渡す役割を果たしている様だ。
あの突然視界が暗くなったのは食べられた瞬間だったのかと思うと、ちょっと複雑な気分である。
そんな話をしていると、床から例の食人植物が生えてきて何かを吐き出した。
「ん、あれ?また同じ部屋〜?」
「あ、紅覇さん。」
「あれ、莉蘭と炎兄だぁ」
紅覇はそう言って此方に駆けてきた。
そうこうしている内にもう一本生えてきて、人を吐き出す。
「おや、また同じ部屋ですか?」
「紅明さん」
紅明は此方に気付くと、黙って歩いて来た。
皆感想が同じ所から察するに、似た様な部屋に運ばれていた様である。
人に会えたのは嬉しいが、あんな感じで自分も吐き出されたのかと苦笑いを浮かべる莉蘭であった。