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マギ 〜その娘皇子の妃にて〜

第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む


それから暫くして、ザリッと何かが石を踏みしめ近づいて来る音に莉蘭は伏せていた顔を少しだけ上げた。
すると、視界の隅に人の足が映り込む。
そこで漸く誰か来た事を悟り、ゆっくりと顔を上げて目の前の人物を確かめた。
そこにあったのは見たかった紅い髪。

「何をしている。」
「…紅炎様……」

言うが早いか、莉蘭は紅炎に抱き着いた。
紅炎の片手がそっと背に添えられる。
それが酷く安心した。

______会いたかった

そう言いかけて開かれた口は、結局何も言わずに閉じられた。
これはもうちょっとした意地だ。
口にした瞬間、此方の負けを認めたことになる。
それでも、彼が来てくれた事に安心しているのは事実で、今の莉蘭には背中の手が酷く暖かく感じられた。

泣いてはいない。
然し体が僅かに震えていて、それはなかなか治らなかった。

添えられた手が、震えを鎮めるかの様にしてとんとんと背を叩く。
まるで幼子をあやすかの様にゆっくり、優しく、一定のリズムを刻んだ。

一方で、紅炎は今のこの状況が理解出来ずにいた。
部屋に着いて直ぐに扉の前に踞る人影を見つけ、声を掛けた。
莉蘭はそれにすら驚いた表情を見せていた。
正直何が何だかさっぱりである。

然し莉蘭が何時に無く弱っているのは明らかだった。
かと言ってそれを聞いて慰めてやれる程器用でもないのは紅炎自身が一番理解している。

紅炎は莉蘭が落ち着くまで黙って背を叩いた。
莉蘭も抵抗する訳でもなく、されるがままになっていた。
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