第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
扉の前に来てからどれくらい経ったのか。
莉蘭はひたすら扉の前で膝を抱えて蹲り、紅炎達が来るのを待っていた。
部屋には何も無く、静寂がその場を支配している。
初めの内は彼方此方見て回っていたのだが、特に何も無いこの部屋で興味を引く物は少なく、直ぐに飽きてしまったのだ。
一人で探検する事は出来るが、遊ぶ事は出来ないのである。
何時も誰かと居て、それこそミュラとはずっと一緒で、一人になる事はほとんど無かった。
「…早く来て……。」
昔から一人になるのは嫌いだった。
退屈だからと言うのもあるが、何より自分が誰とも繋がりが無いように思え、得体の知れない不安に駆られるからだ。
それは十六になった今も慣れない「孤独」の感覚。
兄と話さなくなってからの夜は特に酷かった。
一晩中眠れない日もあったくらいだ。
莉蘭は手にぎゅっと力を入れて腕を掻き抱き、目を固く閉じて言いようのない恐怖に耐えた。
____もう誰も来ないかも知れない
____自分は此処で一人孤独に死ぬのだろうか
そんな事ばかりが頭を過る。
時間が経てば経つだけそれは悪化していく。
自分では如何にも出来ないから質が悪い。
徐々に弱っていく心に蓋をし、莉蘭はひたすら耐えた。
思い浮かぶのは、何時も仏頂面で書物を読むあの人の姿。
仕事を終えてから夜に読む時は、燭台に灯された炎の穏やかな光りが紅い髪を照らし出していた。
机に肘をついて読むその姿が、実は少し気に入っていたりする。
絶対に口にしたりはしないが。
「紅炎様…」
くぐもった声は誰に届くでもなく空中に霧散した。