第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
簡単に準備を済ませると、莉蘭は直ぐさま虎の元へと向かった。
勿論紅炎も一緒に。
「此処から先は一人で。」
莉蘭は虎に気付かれるぎりぎりの所で止まると、此処で待っていて欲しいと紅炎に伝えた。
紅炎が範囲内に入ろうものなら虎が殺気立ってしまい、進もうに進めないからだ。
莉蘭はゆっくりと虎の前へ進むと、真っ直ぐに虎の目を見つめた。
最初は警戒して構えていたが、何もしてこない虎に拍子抜けして構えを解くと、それに合わせて虎も唸るのを止めた。
如何やら此方の敵意に反応していた様だ。
姿勢を普通に戻して四本の足で立った虎は、後ろにある扉と同じくらい大きく思えた。
先程とは違いとても大人しく、警戒はしているものの襲ってくる気配は無い。
ふと、虎が視線を逸らしたので其方を見れば、莉蘭が手にしていた剣が視界に映る。
「あぁ、そっか。ごめんね、今仕舞うから。」
虎の意図を察した莉蘭が剣を鞘に収め、再び視線を戻すと、虎は警戒を解いてその場に伏せた。
目は未だに此方を見ているが、酷く穏やかだ。
よく見ると立派な虎だった。
真っ白な毛に黒い縞模様。
爪や牙は鋭く、地に伏せられた手脚は逞しい。
此方を見つめる青い瞳は空の色をしていた。
吸い込まれそうなその色に、莉蘭は一歩、また一歩と近付いて行く。
周りから見たら眠くなるのではという程莉蘭はゆっくりと前に進んだ。
あと一歩で手が届くというところまで来ると、そのままじっと虎を見つめる。
此方がにっこり微笑んで手を伸ばすと、虎は頭を下げた。
「ごめんね。痛かったよね。」
その白い毛並みをそっと撫でると、虎は目を閉じて低く喉を鳴らした。
ふわふわとした白い毛並みが気持ち良い。
少しして虎はいきなり立ち上がると、大きな声で吠えた。
驚いて身構えるが、襲われる気配は無い。
背後では紅炎が剣を抜いていて今にも走って来そうだったが、大丈夫だと手で合図した。
随分と長い咆哮が止み、虎が光りだす。
すると虎はあっという間に白い玉へと変わった。
両手でやっと持てるような大きさの石は、冷たい印象とは裏腹に不思議と暖かく感じる。
呆然とその場に立ち尽くしていると、遠くの方で「わぁぁああ!」と兵士達が喜ぶ声が響いてきた。
振り返ると、兵達が此方を向いて叫んでいた。