第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
皆が此方に向かって来る中、紅炎が歩いて来るのが見えた。
元々近くに居た為当たり前だが、一番最初に到着する。
「これが鍵でしょうか?」
莉蘭が手に持つ白い玉を見せると、紅炎は「だろうな」と言ってそれを受け取った。
「これで先に進めますね。」
「そうだな。よくやった。」
紅炎はそう言うと莉蘭の頭を撫でる。
一瞬驚きはしたものの、甘んじてそれを受けた。
皆が扉に着くまでの間、莉蘭は紅炎と雑談をして時間を潰すことにした。
「あの子、凄く可愛かったんですよ?模様も綺麗でとても立派でした。」
「そうか。」
嬉しそうに話す莉蘭を、紅炎は何時もと変わらぬ表情で見ていた。
ただ、視線だけがやけに暖かい。
「そう言えば、あの子ちょっとだけ紅炎様に似てました。」
「……俺にか?」
虎に似ていると言われて少し複雑なのか、紅炎の顔が面白いことになっていた。
思わず笑ってしまい、少しだけ紅炎の眉間に皺が寄る。
不満そうだが機嫌を損ねた訳ではないようだった。
「お楽しみのところすみませんが、少しいいですか。」
「ひゃっ⁉︎…何だ、紅明さんですか。ってことは皆さん…」
「私で悪かったですね。」
「あはははー」
何時から居たのか、背後から紅明が話しかけられ思わず素で驚いてしまい変な声が出た。
後ろを振り向けば部下の人達もちゃんと居て、今の会話を聞かれていたのかと思うと少しだけ恥ずかしい。
あんなに奮闘していたのが嘘みたいに事が終わり、莉蘭を気遣ってか、扉の前で少し休憩という事になった。
その途中、遠くで皆がそわそわしながら見守ってくれていたことを聞くと、何だか可笑しくて莉蘭は笑ってしまった。
別に馬鹿にしたわけではなく、単純に嬉しかった。
莉蘭が剣を仕舞った辺りから皆そわそわしていたらしいのだが、近付き始めた時は兵士全員が青ざめた表情をしていたらしい。
話を聞くに、紅覇などはそれはもう面白かったそうだ。
今直ぐにでも飛び出しそうな紅覇を、紅明が取り押さえていたのだとか。
紅覇は本当に部下思いな人だ。
「兄王様、準備が整いました。」
「そうか。では出発する。」
紅炎は立ち上がると扉の前へ移動し、丸く空いた鍵穴に先程の白い玉を埋め込んだ。
ギィィィ…
扉は重苦しい音を立ててゆっくりと開いた。