第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
虎は想像以上に大きく凶暴だった。
大きさの割には俊敏で、回復も早過ぎて切っても切っても直ぐに元に戻ってしまう。
試してみたがマゴイ操作の類も通じなかった。
中でも問題は攻撃力。
単純な力技の威力が凄い。
それに加えて火を吐いたりするもんだから迂闊に近付けないのである。
はっきり言って規格外だ。
「一旦引け!」
その言葉を合図に全員が撤退する。
一定以上の距離を取ると虎は追って来なかった。
その代わり一歩でも入ろうものなら死角であれ気付かれる。
皆機会を伺いながら少しずつ下がって行った。
撤退する最中、莉蘭は徐に後ろを振り返った。
自分より後ろにはもう誰も居ない。
虎は暴れも唸りもせず、只大人しく扉の前で立っていた。
それを見た瞬間、莉蘭の中に僅かな違和感が芽生える。
______何故…?
完全に撤退した後も莉蘭はあの一瞬の違和感が拭えず、考え込んでいた。
虎の目は真っ直ぐに自分を見ていたのだ。
とても静かな目で。
こんなに大勢居る中、自分だけを。
気の所為だと言われればそれまでだ。
然し、これは勘違いでは無いと思う。
目が、合った。
「……?莉蘭さん?…莉蘭!」
「⁉︎っはいっ!」
「…その様子では聞いていませんでしたね。」
そう言って溜息を吐く紅明の姿に、話が進んでいたことに気が付いた。
今は紅明の推察の基作戦会議中なのだ。
先程の泉の件もあり、参考程度に意見を聞きたいと言う事で莉蘭も会議に参加している。
然し会議中に上の空では何の意味も無い。
「すみません…少し考え事してました。」
「……何処から聞いて無かったんですか?」
「……えっとー…」
そのまま視線を逸らすと、紅明は盛大にため息を吐いた。
莉蘭はあははと乾いた笑いを漏らしながら「ごめんなさい、紅明さん」とそっと心の中で呟いた。
口に出したら余計に怒られそうだ。
「では最初からですが、あの虎は門番の様です。扉を調べたところ鍵穴のようなものが見つかっています。鍵には虎が関係していると思われますが、今のところ方法は見つかっていません。」
「本当、あの回復力は卑怯だよねー。」
「私達は今金属器が使えませんからね。」
紅明がそう言うと余計に無理な気がしてきた。
その場に居た四人全員が一斉に溜息を吐いた。