第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「これが、迷宮…」
開かれた扉の向こうには信じられないくらい壮大な景色が広がっていた。
一体あの建物の何処にこんな空間が在るのか。
人が千人居ても回りきらない程太い幹の樹木が一本、空間の中に堂々と聳え立っており、その周りには深い森が広がっていた。
空中には巨大な鳥が飛んでいて、森には沢山の植物が生い茂っている。
何れも見た事のないものばかりで、彼方此方観察するのに忙しい。
何処から差し込んでいるのか、先程とは打って変わって辺り一帯は暖かい光で照らされていた。
此処が建物の中だというのは分かってはいるのだが、如何しても疑いたくなる。
澄んだ空気も、暖かな日差しも、生い茂る木々も、何処か深蒼の山を思い出させた。
然し、青い空が在るべき場所には壁や天井が在り、この穏やかな空間に似つかわしく無い存在感を放っている。
「何してんのー置いてくよー」
紅覇に呼ばれる声で我に返り、慌てて紅炎の側に駆け寄った。
皆慣れているのか、莉蘭の様に立ち止まって呆然としている人はいない。
もうちょっと皆んな驚いても良いと思う。
「珍しいか。」
「っ⁉︎…すみません。はしたない、ですよね。」
物珍しい光景にきょろきょろと辺りを見回していた莉蘭は、近くに人がいるのを忘れて迷宮内を観察していた。
この場に在る全ての物に興味が湧くから困ったものである。
頬を赤らめて隣を歩く莉蘭に、紅炎は「無理もない」と言ってふっと微笑んだ。
別に咎める積りは無いらしい。
それは良いのだが、興味津々に見回していたのを見られていたのかと思うと少々恥ずかしかった。
莉蘭も照れらながら微笑み返す。
その場には何時に無く穏やかな空気が流れていた。
そんな光景を見た周りの人間が夢でも見ているのかと驚いてたことなど、二人は全く知らない。