第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「小隊内二名、只今戻りました。」
「早速ですが、報告を。」
戻って早々、莉蘭と玲明は紅炎達の前で泉の先に在った物を話した。
流石は隊長を任せられるだけの事はあると言うか、玲明から報告される情報は必要なものとそうで無いものが洗練されていて、莉蘭が報告しようと思っていた事は大体彼が説明してくれた。
紅炎は報告を聞くと直ぐに立ち上がり、出発を告げる。
今回は全員が泳がなくてはならないから一苦労だ。
「莉蘭〜僕泳いだ事無くって、泳げるか分かんないから宜しく〜」
「え、泳いだ事無いんですか?」
そう言って手を差し出す紅覇に、莉蘭は唖然とした。
真逆泳いだ経験の無い人に出会う日が来ようとは。
深蒼は海に面している為、国に住む者なら一度は海で泳ぐ。
だからそれが当たり前だと思っていた。
恐る恐る紅明の方を向くと、視線に気づいた紅明が首を横に振る。
「私と兄王様は泳いだ事有りますよ。私に限っては確実に泳げませんので、兄王様に頼んであります。」
「てことは、紅炎様は…」
「泳げますよ。」
周りを見回して見ると、意外と泳げない人が居る事に気がついた。
泳げる者と泳げない者が一人ずつペアを組み、泉に入って行く。
煌帝国は様々な土地の者達が集まっている為、水気の無い所で育った人は、全員でないにしろ、泳げない人が多いらしい。
そういった人は泳ぎに自身のある人に引っ張ってもらうしかない。
「何をしている。早くしろ。」
そう言って急かしてくる紅炎の眉間には皺が寄っていた。
不機嫌な様に見えるが大してそうでもなさそうだ。
先に行かずにちゃんと声を掛けてくれる処とか………止めよう。
莉蘭は紅覇の手を握り、紅炎達と共に泉へと入った。
「あー」
「如何したの、莉蘭?」
「いえ、その、手を繋いだまま泳ぐの結構大変だなーと思って。」
「そうなの?じゃあこうすれば良いんじゃない?」
そう言うと、紅覇は莉蘭の首に腕を回した。
普段出会い頭に抱き着かれていた事もあり大して驚きはしないのだが、如何せん顔が近い。
もういい加減に慣れたが。
「じゃあ、一、二の三で息を吸って止めて下さい。」
「りょうかーい」
「行きますよ。一、二の三。」
紅覇に合わせて莉蘭も息を止めると、出来るだけ早く泉へと潜って行った。