• テキストサイズ

マギ 〜その娘皇子の妃にて〜

第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む


皆の熱い視線に見送られながら、先に部下の人二人が泉に入って行く。
その後に隊長の玲明と莉蘭、そのまた後に残りの一人が入る手筈である。

胸の辺りまで浸かった所で莉蘭は一旦止まった。
今更ながら紅炎が怒っていないかと気になったのである。
本当に一瞬ちらっと見ただけだったのだが、何故か紅炎と視線があってしまった。

(っ⁉︎…何でこっち見てるんだ…)

注目の的になっているのだから見られていて当たり前なのだが、まさか目が合うとは微塵も思っていなかった。
直ぐに前を向いたが、余程驚いたのか鼓動が早くなっている。

「莉蘭様、大丈夫ですか?行きますよ。」
「え⁉︎あ、はい!」

こんなに心が乱れたままでは息もそう続かない。
莉蘭は一度顔を水で洗い、数回深呼吸をしてから潜って行った。

____________________________


「良かったのですか、彼女を行かせても。」

莉蘭達を見送った後、紅明は紅炎に尋ねた。
その声は半ば諦めの色を含んでおり、呆れているのがはっきりと分かる。

「止めて機嫌を損ねても面倒だ。」

未だ夫婦になって間も無いが、莉蘭の性格を紅炎も理解している様だ。
ちゃんとした理由が有れば別だろうが、「女だから」とか「妻だから」と言って止めても聞くまい。

「…そうですか。」

正直なところ、紅明は驚いていた。
あの兄が妻の機嫌を気にしていると言うのか。
世界統一を除けば歴史にしか興味を示さないあの兄が。

(そんなにあの娘が良いんだろうか?)

今まで大して気にしたことは無かったし、寧ろ如何でもよかった。
然し、『練紅炎』という人間をここまで変えてしまう人物なら興味が無くもない。

第一印象は悪くもなく良くもない、至って普通の、何処にでも居る娘だと思った。
確かに兄が気に入っていると知った時は驚いたが、所詮は政略結婚。
然も相手は第一皇子である紅炎だ。
その内醜い本性を出すと思っていた。
だが実際は周りの人間の評判は変わらず、謙虚で気の利く人で通っている。
いきなり鍛錬をしたいと言っていると聞いた時は驚かされたが、下手に飾らない人なのだろう、と考えを改めたのも事実である。

「何なのでしょうねぇ…」
「何が?」
「いえ、独り言です。」

急に老けた紅明に、首を傾げる紅覇であった。
/ 121ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp