第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「何か、此処が本当の入口って感じだな…」
莉蘭は泉を見ながら静かに呟いた。
扉を潜って迷宮の中に入った訳だが、此処からが本番だと感じて仕方ない。
得体の知れない生物。
薄暗い洞窟の中で眩いばかりに輝く泉。
確かに其処に在るのに触れても濡れない水。
未知を知る感覚。
試されているという実感。
______面白い
莉蘭は確かにそう感じていた。
今までこんなにはっきりと「自分は試されているのだ」と感じることは無かった。
その感覚を、自分は少なからず楽しんでいる。
今の莉蘭を動かしているのは「この先に何があるのかを知りたい」という知識欲に似た感情。
魔法も武術も読書も、自分がどこまで出来るのか、何を知っていて何を知らないのか、それらを測る為に続けている節がある。
勿論楽しいというのが大きな理由だが。
一言で纏めてしまえば、好奇心旺盛。
この迷宮に来たのも然り。
父にも「もうちょっと女らしくしなさい」とよく叱られたものだ。
この先には自分の知らないものが沢山有る。
莉蘭の胸は期待で高鳴っていた。
早く先に進みたくて仕方がない。
幼い頃から活発だった莉蘭は、兄と共によく探検をした。
まあ、この歳になっても特に落ち着く訳でもなく、偶に出かけてはいたのだが。
その時の自分の知らない何か〈宝物〉を見つけた時の感覚。
今のこの高揚感はそれに近い。
「莉蘭さん」
「紅明さん。作戦、纏まりましたか?」
「ええ、ある程度は。」
紅明達は先程からずっと会議を開いていて、それに参加出来ない莉蘭はその輪から外れ、水を触りながらいろいろ試していた。
飲んでみたり、汲んでみたり。
然し飲んでも渇きが満たされる訳ではなく、ちゃんとした器を使って汲んでも水は流れ出ているかの様に無くなった。
本当にこれは水なのか?という疑問が濃くなるばかりである。
その後そろそろ出発だということで、簡単に作戦の説明を受けた。
「これは飽くまで調査です。敵に遭遇しても無理に戦おうとせず、引き返して来てください。特に莉蘭さん。」
「「はっ!」」
「て、え?私だけ別枠で注意ですか。」
「貴方が一番無茶しそうですから。」
…ごもっともです。