第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
紅炎が出した答えは「進む」だった。
然しいきなり全員で行くわけにもいかないので、現在泳ぎが得意な人を集めて小隊を編成している。
集まったのは莉蘭を含めて五人。
隊長の名前は周玲明(しゅう れいみん)。
黒髪碧眼で高身長、見るからに好青年といった感じの人だ。
ちらりと視線を向けると目が合った瞬間に微笑まれ、莉蘭はどきりとして目を逸らした。
(何だろう、今の…)
玲明と目が合った瞬間背中がぞくりとした。
とても人の良さそうな人だと感じるのとは裏腹に、本能は危険だと訴えてくる。
纏わり付くかの様な、得体の知れない不安感が拭えない。
然しこれから一緒に行動する人を、況してや紅炎が隊長に据えた人を疑いたくはないと、莉蘭はその不安に蓋をした。
兄との事も有り、莉蘭はあの事件の後から必要以上に他人に気を遣う様になっていた。
心配を掛けたくない、と人と接する時は何時も気を張り、笑顔を作った。
時が経てばそれが当たり前になっていて、人の気持ちの動きにも敏感に反応する様になった。
きっと周りの環境が変わってそういった感覚が鋭くなり過ぎているに違いない。
「莉蘭様、僭越ながら私が護衛を務めさせて頂きます。まだまだ未熟者ですが、この命に代えても御守り致しますので如何かご安心を。」
そう言って玲明は微笑んだ。
矢張り何処から如何見ても良い人そうだ。
「宜しくお願いします。隊長さんに守って頂けるのはとても心強いですが、女とは言え私も武人の端くれ。自分の身は自分で守ります。ですから、私を庇おうなんて考えないでご自分をちゃんと守って下さいね。」
莉蘭がそう言うと、玲明は心底驚いた顔をしていた。
彼の言いたい事は分かる。
今まで幾度となく見てきたし、女なのにはしたないと罵られた事もある。
詰まる所、慣れている。
「…何と言うか、お聞きしていた以上の御方ですね。頼もしい限りです。」
そう言って笑う玲明は何処か楽しそうだった。
そんな彼に、莉蘭は何も言わず只々微笑みを返す。
玲明は話してみてもやっぱり人の良い好青年だった。
周りの人達からの信頼も厚い様で、「頼んだぞ」とか「頑張れよ」とか皆に声を掛けられている。
(あの人が信用してるんだから…)
莉蘭は玲明を信じた紅炎を信じることにした。