第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
暫く眺めてみたが此方に引き返して来る様子が無かった為、莉蘭は再び水中に潜って中を観察し始めた。
元々海の側で育ってきたのも有り、泳ぎはお手の物だ。
取り敢えず息の続く限り潜ってみると一番底に辿り着いた。
池より深いけど湖よりは浅いといったところだろう。
下へ下へと進んでいる筈なのに、光が強い方へと進んでいる所為で何方が上か分からなくなりそうだ。
泉の底には白い石が見渡す限り一杯に転がっていた。
大きな岩から片手で幾つも持てる石まで様々である。
如何やら此れが光の原因らしい。
莉蘭は小さめの石を一つ掴むと、勢いよく底を蹴って浮上した。
そのまま水面に顔を出し、新鮮な空気を肺一杯に吸い込む。
呼吸が落ち着いたところでゆっくりと陸地に上がった。
「やっぱり乾いてる…」
水の中に入っていた筈なのに、着ていた服や髪は少しも濡れていない。
矢張り迷宮とは不思議な所だ。
莉蘭は辺りを見回して紅炎達を探した。
三人は未だ会議中の様だ。
「あ、莉蘭。戻ったんだ。」
「はい。あの、泉の底で此れを見つけました。」
そう言ってあの白い石を差し出す。
紅明はそれを手に取ると、また何かを考え出した。
「大きさはばらばらですが、白い石が底一面に転がっていました。此れがあの光の原因かと。」
皆それぞれに考えているのか、暫くの間沈黙が続く。
「他に潜ってみて何か気になった事は有りませんか?」
紅明にそう聞かれ色々と思い返してみると、一つだけ引っかかっている事があった。
「潜っている途中は気付かなかったのですが、この泉は底に行けば行くほど狭くなっている様です。かと言って其処で終わりでは無く、奥に続いている様にも見えました。」
「…と言う事は、其処が通り道かも知れませんね。」
この空間には入り口が有っても出口は無い。
かと言って分かれ道が有った訳でもなく、疑いようも無い一本道だった。
そんな状況で泉の底が奥に続いている様なら、最早其処は道なのだ。
然し道と言っても水中である事に変わりは無い。
一体如何やって進む積もりなのだろうか、と莉蘭は紅炎の言葉を待った。
進むも、引き返すも、部隊長である紅炎次第。
全員の注目が彼に集まっていた。