第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
そのまま何匹もの敵を斬り、その場に居た敵が居なくなった頃。
莉蘭は怪我をした部下の人達の手当てをして回っていた。
体がぶよぶよしていた為直接的な攻撃で傷を負う事は無かったが、如何せん力が強く、吹き飛ばされた先の岩に打つかって打撲や切り傷が出来ていた。
「他に痛い処は有りますか?」
「大丈夫です。有難う御座います。」
よし、と頷いて次の人のところへ行こうと歩き始めた時、岩しかない筈の地面から何かが湧き上がり、莉蘭の体を包み込む。
「ん⁉︎」
視界が水中に入ったかの様にぼやけ、波打つ。
外に居る人達が此方に武器を構えているのが辛うじて分かり、漸く自分の置かれた状況が理解した。
如何やらあの半液体状の生物に取り込まれてしまったらしい。
敵の中は見た目通り液体で満たされていて、動かそうとする手足が重く、上手く動かない。
剣で切り裂いて出ようとしても、分厚い膜のようなもので覆われていて出来なかった。
そしてもがけばもがく程息が苦しくなっていく。
(このままじゃ息が…)
何とか踏ん張ってはみるものの、結局は空気が無ければ呼吸は出来ない。
遂には酸欠で意識が薄れ始め、莉蘭の口からは残っていた空気がごぼごほと音を立てて溢れた。
最悪の状況が脳裏を過ぎった時、突然肺に空気が入って来る。
莉蘭はそのまま何度も咳き込んだ。
暫く地面にへたり込んで新鮮な空気を堪能する。
「有難うござゴホッゴホッ…」
最後まで言い切る事は出来なかったが、言いたい事は通じたらしく、紅覇は「危ないとこだったね〜」と笑い掛けた。
莉蘭はそれに苦笑いを返す。
本当の処、笑い事ではない。
彼らに助けられていなければ、今頃自分は物言わぬ屍に成り果てていたのだ。
考えただけでぞっとする。
然し、それと同時にわくわくもしていた。
これこそが迷宮。
幾多の冒険者が命を賭して挑む場所。
莉蘭は一人の武人として、そんな場所で自分の力が何処まで通用するのか試してみたいと思うのだ。
まあ、今の所足を引っ張っているのだが。
それにしても、先程の事を思い出すと何と言うか、言い表し難い気持ち悪さが込み上げてくる。
「飲んじゃったんだよね…あの生物の体液…」
吐き出そうにも吐けない莉蘭は、ただ精神的なダメージをくらい続けていた。