第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
その後も敵が攻撃して来ることは無く、一行は大きく開けた場所に辿り着いた。
「…綺麗な泉…」
そこに在ったのは大きな泉。
苔が唯一の光源であるこの洞窟で、泉は陽の光を受けているかの様に輝いていた。
近くに寄って見ると、光は泉の底から放たれれている様で、ゆらゆらと揺れる波紋が天井に映し出されている。
その幻想的な光景に惹かれて水の中に手を入れてみたが、何故か冷たさは感じなかった。
確かに触れている感触は有るのに、温度だけは感じない。
両手で器を作り少しだけ掬い上げてみると、水は徐々に手から零れ落ちていった。
最後の一滴が地面に落ちる。
(あれ…?)
莉蘭が違和感を感じた時、背後から悲鳴が聞こえた。
慌てて振り返ると、紅炎の部下の人達が何か得体の知れないモノに襲われていた。
敵は半液体状のぶよぶよした体をしていて、体内に部下の人達を取り込んでいる。
「何ですかあれ⁉︎」
莉蘭は顔を引き攣らせて叫んでいた。
背筋に悪寒が走り、肌が粟立っている。
正直言って気持ち悪い。
「あれが迷宮生物ですよ。」
「紅明さん……助けに行かないんですか?」
紅炎や紅覇が敵と戦っている中、紅明は一人隊の後ろの方に居る莉蘭の横に立ち、戦いを見ていた。
ぐるっと一周考えて莉蘭が尋ねると、紅明は「私は戦闘力無いんで」と言って笑う。
いやいや、笑ってる場合じゃないでしょう。
見れば紅炎も金属器を使っていない。
迷宮の中では使えないのだろうか。
とは言え紅明もそれなりの実力者。
剣を使って闘うことは出来なくても、違った方法で戦う事は出来る。
紅明がそのまま後ろから指示を出して部下を上手く誘導すると、混乱していた戦場が冷静さを取り戻していった。
こちらは流石と言う他無い腕前である。
「紅明さん、私も行ってきます。」
「止めても」
「行きます。」
「…お気を付けて。」
莉蘭は頷くと、剣を片手に戦場へと躍り出た。
半液体状の生物は、切った側からべちゃっと音を立てて地面に張り付き、直に溶けて消える。
(気持ち悪いぃぃぃっ‼︎)
莉蘭は叫びそうになる気持ちを抑え、目の前の敵を倒していった。