第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「来たか。」
紅炎は莉蘭が到着したのを確認すると皆に出発を告げる。
如何やら自分が一番最後のようだった。
初めから数えて四番目に入った筈なのだが、出てくる順番は関係無いらしい。
その事実が、この場所が既に外の世界とは違う事を物語っている。
辺りを見回しても石や苔以外は何も無く、床や天井も岩で覆われていた。
それなりに広い場所だが、扉らしき物は見当たらない。
気が付いたらこの場所に立っていた。
…如何なっているのだろう。
岩で出来た壁の一箇所には奥へと続いている穴が開いていた。
其処しか進める道が無い為、一行はその道に入って行く。
風も陽の光もある訳ではないのに、空気はからからに乾いていた。
なのに壁や床には青々とした苔が生えていて、それらは緑色に光っている。
そのお陰で明かりを点けなくても難無く進めるが、少し気持ち悪い。
一見水気の無いこの場所で如何やって生きているんだか。
これも迷宮動物の一つなのだろうか?
…いや、植物か。
通路の幅は大人二人が並んで歩けるくらいで、高さは紅炎が普通に立って少し余裕があるくらいだった。
道は凸凹している為、紅炎は時折頭を下げて歩いている。
莉蘭は、あの冠の分も考えて歩かなければならないのはちょっと大変そうだな、と思いながら、直ぐ後ろからその光景を見ていた。
幅も高さもそんなに無い道を大人数がぞろぞろと歩くのは少々大変である。
然もごつごつした岩と生えている苔の所為で足場が悪い。
それに加えて道は登ったり降ったりと忙しく、体力を無駄に消費していった。
そんな悪路でも紅炎は確りとした足取りで進んで行く。
莉蘭も負けじとそれに続くが、この悪条件の中どれだけ体力が保つのだろうか。
今のところ進行状況は順調。
未だ迷宮生物らしきものに出会えてはいない。
(本当に此処は"あの"迷宮の中なのだろうか。)
そんな事が頭を過るくらい何も起きない。
ちょっと物足りないな、などと考えながら歩いていると、莉蘭は足元に在った苔で足を滑らせ、危うく坂道を転がり落ちそうになった。
然し岩にぶつかる事は無く、何かに体が支えられ体が浮き上がる。
「あれ?」
見ると紅炎の片手が莉蘭のお腹辺りを支えていて、そのお陰で宙に浮いていた。
「気を付けろ。」
「あははは…すみません。」