第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「ところでさ、炎兄あの事聞かなくて良いの?」
______あれ、放置ですか
紅覇はあまり興味無かった様で、それ以上その話をすることは無かった。
紅炎も別段気にした様子も無く、話は次に移る。
莉蘭は紅覇の言葉に首を傾げた。
此方を見た紅炎の顔が何時になく真剣で、莉蘭も自然と姿勢を正す。
如何やら真面目な話の様だ。
「お前、迷宮攻略には興味あるか。」
「迷宮…ですか?」
「今度僕と炎兄と明兄、あと部下も連れて行くんだけど、ジュダルが莉蘭も連れてけって言ってて。」
「ジュダルさんが?」
扉の横に立っているジュダルを見ると丁度此方を向いていて視線が合った。
何故か得意げな顔をして笑っている。
「迷宮には迷宮生物って言う怪物もいるから、危ないと思うよ。死ぬかも知れないしね。」
紅覇は心配してくれているようで、あまり乗り気ではないようだ。
何時だったか書庫にあった文献で読んだことがある。
確か『シンドバッドの冒険書』と言う題名だったような。
文献と言うよりは、物語性の強い読物だった。
十四年前に出現した迷宮以来、各地に突如現れた迷宮を少年とその仲間が攻略し、幾多の困難を乗り越え成長していく物語。
______だったはず。
それなりに面白くて読んでいたのだが、本の中に登場してきた迷宮には、見たことも無い生物がうようよいたと記されていた。
それらは皆獰猛で、迷宮に挑んだ殆どの人間が命を落とす。
一度入れば攻略するまで出られない。
困難を乗り越え、攻略した者のみが力を手に入れる。
そう書かれていた。
まあ、後半はかなり大袈裟に書かれている様にも思えたが。
そんな場所に行って自分が生きて帰って来れる可能性は殆ど無いように思える。
「私は……」
危険な場所だ。
死にに行く様なものだ。
行ったって足手纏いにしかならないかも知れない。
冷静に考えれば行くべきではない。
いろいろな言葉が脳裏をよぎった。
______この時「それでも」と思ってしまった自分はきっと命知らずなのだろう______