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マギ 〜その娘皇子の妃にて〜

第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む


右耳にそっと手をやるとそこには何も無く、莉蘭は慌てて辺りを見回した。
するとそれは机の上に置かれいていて、思わず安心の溜息を漏らす。

取りに行こうと体を動かすが、未だ指先がぴりぴりしていて布団が上手く掴めず、足も思うように動かなかった。
掴んだ時に電気が走る様な感覚が有り、その所為で掴めているのかすら分からない。
例えるなら、長時間正座していて立ち上がったけど感覚が無い、みたいな感じだ。
指先がまるで自分の体では無くなってしまったかの様で何とももどかしい。

そうこうしている内に、莉蘭が何をしたいのかを察した凛花(りんか)がイヤリングを取って手渡してくれた。
本当によく出来た人だ。

莉蘭は「ありがとう」と言うとそれを受け取り、手の中で遊ばせた。

銀で出来たそれは窓からの光を受けてきらきらと輝いている。
凡そ小指程の長さのこの笛は、例の事件の後ミュラが特別に作ってくれた魔法具だ。
吹くと先からルフが溢れ出す仕組みになっていて、体に収まり切らなくなったマゴイを少しずつ逃す為の物。

莉蘭は徐に笛を口に咥えると、軽く息を吹き込んだ。


ピィー…


ルフ達は小さな声で鳴きながら目の前をひらひらと舞い、開いていた窓から出て行った。
きらきらと輝く川が青い空に飲み込まれて行く。
鷹が鳴くような音を出すこの笛と、笛が作り出す幻想的な景色が莉蘭は好きだった。

然しこれらは莉蘭や魔導士にしか見えないし聞こえないらしい。
魔導士でない莉蘭が何故ルフが見えるのかというと、ミュラ曰く「体質の所為」とのことだった。
先端から出てくるルフの量は、本人には見えて他人には見えない微妙なところらしい。
よって普段からルフが見えるわけではない。

只々イヤリングを咥えて吹く莉蘭を不思議に思ったのか、凛花が「如何かなさいましたか」と声を掛けてきた。
この光景が見えない人にとっては嘸かし滑稽に映るに違いない。

莉蘭は曖昧に微笑みを返すと、「もう大丈夫だから、仕事に戻って」と言って彼女を通常業務に戻した。

普通なら一人につき必ず一人はついている女官だが、莉蘭はつけていない。
元々深蒼でもつけていなかったと言うのもあるが、王族とは言え一通り家事が出来るので必要無いと断ったのだ。
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