第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
目が覚めるとそこには何時もの天井が見えた。
それは最近やっと自分の部屋だと認識出来るようになったものだ。
ぼんやりと天井を眺めながら、莉蘭は何故自分は此処に寝ているのかを考えていた。
______あぁそうか、久々に発作が出てそのまま…
意識を手放す前の息苦しさを思い出し、一度目を閉じる。
暫く閉じたままでいると、誰かが扉を開けて入って来た。
再び目を開けてそちらを見れば、そこに居たのは見知った女官。
倒れた後からずっと世話をしてくれていたのか、額には未だ冷たいタオルが載っていて、彼女の手には水が入っているであろう桶があった。
目が合うと女官は安心した様に息を吐く。
彼女の名前は凛花。
とても気の利く人で、未だ此処に来て間も無い自分に気さくに話し掛けてくれた最初の人だった。
その後も色々気に掛けてくれているらしく、一日一回は必ず部屋に顔を出す。
莉蘭が体を起こそうとすると、凛花は手を差し伸べて手伝ってくれた。
先程の攻撃が直撃した所為か、未だ体に力が入り難い。
「お目覚めでしたか。」
「今起きたところ…あの、誰が私を此処に?」
「それでしたら、紅炎様が横抱きにして運ばれてましたよ。」
「え。」
如何にも嫌そうな声を溢した莉蘭に、凛花はくすくすと笑った。
きっと凄く間抜けな顔をしていたのだろう。
後でお礼を言おうと尋ねたのだが、思いがけない事実を知ってしまった気がする。
(気を失った私を、あの人が、よ、横抱きに…意外に重いなとか思われてたらどうしよう…立ち直れない。)
莉蘭は堪えきれずに項垂れて溜息を吐いた。
普段女らしいかと言われれば答えは否だが、矢張り一人の女としていろいろ思うところがあるのだ。
…考えるの止めよう。
「ところで、紅覇さん達は?」
「会議に出ておられます。お急ぎですか?」
莉蘭は「いいえ」と返すと少し肩を落とす。
先程の事を詫びたかったのだが、忙しいなら後にした方が良いだろう。
彼らには自分の発作のことを話していなかったから驚かせてしまったかも知れない。
この三年は発作も無く、既に治ったものとばかり思っていたので油断していたのだ。
まさか外部からのマゴイに反応して起きるなんて思いもしなかった。
莉蘭は念の為にと毎日イヤリングを着けていて良かったと心底思う。