第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
「それは本人が決めれば良いんじゃない?ね、莉蘭。…莉蘭?」
そう言うと紅覇が心配そうに此方を覗き込んでくる。
それもそのはずだ。
先程から一向に息切れが治らないのである。
最初は何時もの疲れからだとか、痺れの所為だとも考えたが、どうも様子が違う。
胸の辺りがやけに苦しい。
服を握り締めて踞る莉蘭に、ただ事ではない気配を察した紅覇が紅炎を呼んだ。
紅炎は腰に差していた剣を引き抜くと、莉蘭の上に翳して「癒せフェニクス」と唱える。
剣が淡く光を放ち始めると、体内にマゴイが流れ込んで来る感覚が伝わってきた。
その瞬間、心臓が一際大きく脈打ち始める。
「っ⁉︎」
莉蘭は声にならない悲鳴を上げ、その場に倒れた。
僅かに出来ていた呼吸も儘ならなくなり、段々と意識が薄れていく。
そこで漸く発作のことを思い出し、何時も右耳に着けているイヤリングに手を伸ばした。
周りがあたふたと騒がしくなる中、莉蘭は取り外したイヤリングを口に咥え、苦しさを堪えて精一杯息を吹き込んだ。
ピィィィー……
高い澄んだ音がその場に響き渡る。
鷹が鳴くような音と共にイヤリングの先からルフが溢れ出した。
「何だ?この音。」
「音?」
然しその音もルフの光も、その場に居て捉えていたのジュダルだけだった。
他の者には聞こえていないらしく、皆不思議そうな顔で見ている。
ピィィィー……
何回か吹けば苦しさは軽減していった。
暫くして呼吸が安定してくると、体が地面から浮き上がった感覚があり、「あぁ自分はこのまま死ぬのだろうか」という考えが過る。
莉蘭は何度か深く息をすると、イヤリングを握り締めたまま意識を手放した。