第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
魔導士はマゴイ量が多い分体力面では弱いと聞く。
然し、創世の魔法使いであるマギはルフの加護を受けていて、マゴイはほぼ無尽蔵に使えると本には書いてあった。
という事は、長期戦ではほぼ無敵である。
…殆ど反則の域だ。
本の内容を思い出しながら肉弾戦に持ち込むのが一番かと考えた莉蘭は、紅覇の掛け声と共に一目散に走り出した。
一気に間合いを詰めて斬りかかる。
然しその剣はジュダルが身の周りに張った障壁によって阻まれた。
剣と障壁がぶつかり合い、ガッと鈍い音が響く。
それはミュラと試合をした時によく見ていたものだった。
魔導士が張る障壁(ボルグ)は個人の実力に依って硬さが異なる。
マギだと言うジュダルのそれは流石に硬く、普通の剣では壊せそうにない。
莉蘭は一度距離を取ると、剣の切っ先に意識を集中した。
ボルグを破れるよう剣先にマゴイを集める為である。
これはマゴイ操作と言って、魔法が使えなくてもマゴイを操ることが出来る技だ。
莉蘭は幼い頃から魔法を学びながら、魔法使いではない為に魔法を使うことが出来なかった。
それでも出来ないと諦めるのが嫌で、必死に鍛錬した結果、マゴイ操作が出来る様になったのだ。
然し、師匠がいなかった為完全に自己流になっている。
同じ様にマゴイ操作が使える白龍に一度見せたのだが、彼は「俺が使う『気』とはまた別物ですね」と言っていた。
莉蘭がマゴイを集めるのには少々時間がかかる。
然しジュダルがそれを大人しく見ているはずもなく、攻撃を仕掛けてきた。
「そんなもんか?次はこっちからいくぜ!サルグ・アルサーロス!」
ジュダルが唱えると、空気中に幾つもの氷の塊が出現する。
杖を振り下ろした瞬間、それらは此方目掛けて飛んできた。
莉蘭はそれらを冷静に見極め、避けていく。
慣れてきたところで、飛んできた氷の塊を幾つかジュダル目掛けて弾き返すと、莉蘭は再び斬りかかった。
然しまたしても障壁に阻まれ、ジュダル本人には届かない。
「へっ、芸がねぇな。無駄だってのが分かんねぇのか?」
「それは如何でしょう。」
莉蘭はそう言うとボルグに剣を突き立てた。
その先端にはマゴイが宿っている。
莉蘭が力を加えると、ボルグはピシッと音を立てて小さな罅を作った。