第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
それはさて置き、この人はちゃんと戦えるのだろうか。
神官の主な仕事は神に仕える事。
戦闘は勿論、肉体労働すらしないはず。
まあ、本人が闘いたいと言っているからにはそれなりに出来るのだろう。
…見た感じは筋肉質だが。
「私は別に構いませんよ。然し神官殿は武術の心得がおありで?」
「お前なんか喋り方堅いな。ジュダルでいいぞ。」
「そうですか?ではジュダルさんで。」
「俺は強いぜ。なんせマギだからな!」
何となく会話がちょっとずつずれている気がする。
人の話を聞いているのかいないのかよく分からない人だ。
なんと言うか、自由奔放。
「マギ?マギ、マギ、マギ…」
何処かで聞いたことのある単語に、莉蘭は何処だったかなと記憶を遡った。
真剣な顔で考え出した莉蘭を、ジュダルは「知らねぇのか?」と怪訝そうな顔で此方を見ている。
暫く思い返していると、ふと紅炎の書斎で読んだ本にそんな記述があったのを思い出した。
確か蒼家の書庫にもそんな本があったはずだ。
「創世の魔法使い…。」
莉蘭がそう呟くと、ジュダルは楽しそうにニヤリと笑った。
如何やら合っていたらしい。
「何だ、知ってんじゃねぇか。」
「…マギならば問題は有りませんね。紅覇さん、審判をお願い出来ますか。」
「良いよ〜。ジュダルはあんまり建物壊さないようにね。炎兄怒ると怖いんだから。」
紅覇がそう言うと、ジュダルは顔を引きつらせて「おう…」と頼りなく頷いていた。
神官でありマギである人さえ恐させるとは、あの人は一体何者なのだろう。
紅覇が少し離れた位置に着くと、莉蘭とジュダルも距離を取って向き合った。
莉蘭が剣を構えると、ジュダルは赤い宝石の様な物が先端に付いた杖を取り出す。
魔導士が使う杖の様だが、莉蘭の知っている物よりもかなり短かった。
知り合いの魔導士、もといミュラのことなのだが、彼女が持っていた杖は彼女の身長と同じくらい長かった。
深蒼に仕えている者は皆同じくらいの長さだ。
マギは特別だから短くても問題無いのだろうか。