第4章 その娘、武人にて迷宮に挑む
例えば、同じ無表情でも「今何か難しい事考えてるな」とか、逆に「何も考えて無いな」とか。
何時も難しい顔をしているから何か考え事をしているのだと思っていたのだが、意外とただぼーっとしている事も多い。
まあ、書斎に居る時だけかも知れないが。
目安は眉間の皺。
特にやる気が出ない日はコケシの様な表情をしている。
因みに、コケシは深蒼で作られている木で出来た人形である。
主にお土産用の品物で、大きい物から小さい物まで大きさは様々。
また作る職人によって顔や表情が違う。
昔買ったコケシの中にぼーっとしている紅炎にそっくりな物があった気がするのだが、今度送ってもらって書斎に飾ってみようか。
それに、紅炎は一々言葉では言わないが、何かしらの合図は出していたりする。
一番分かりやすいのはお茶のお代わりが欲しい時。
湯呑みを暫く持ったままの時は「欲しい」。
それ以外は「まだいい」や「もういい」の合図だったりする。
前に、中にお茶が入っていなかったのに気付かず湯呑みを持ち上げて飲もうとして、少しの間固まっていた事があった。
その時は本を読むのに夢中で、暫く気付かないまま放置してしまったのだが、何故かずっと黙ってこっちを見ていたのだ。
気付いた時は思わず噴き出して笑ってしまった。
それを見て紅炎は不思議そうにしていて、それが笑いに拍車を掛けたのは言うまでもない。
始めの頃は未だ要るかどうかを聞いていたのだが、余程集中しているのか、紅炎は読み物をしている時に話しかけると少し不機嫌になるのだ。
如何したものかと考え、観察した結果、何も言わなくても分かるようになってしまった。
人間って凄いな、とつくづく思う。
そして順応していく自分が怖い。