第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
莉蘭が苦笑いをしていると、紅玉は「それに、」と言って話を続けた。
「あのお兄様が珍しく手を出すなと仰ったお人ですものぉ。もっと自信をお持ちになって。」
紅玉はそう言うとにっこりと笑った。
その笑った顔が可愛らしい。
などと話を聞き流してしまったが、莉蘭は直ぐに重大な点に気づき紅玉に問い返す。
「紅炎様が、何と仰ったんです?」
「あらぁ、貴方その場に居たんじゃありませんのぉ?」
不思議そうな紅玉顔に、莉蘭は記憶を辿ってみるが心当たりは無かった。
「お兄様が"お前にはやらんぞ"って仰ったらしいですわぁ。」
「⁉︎」
その言葉を聞いた途端、紅覇達が驚いた顔で固まっていた光景が瞬時に蘇った。
何故か物凄く拡大解釈されている様だ。
誰も手を出すなとは言っていない。
それに、あんなのは只の冗談だ。
紅炎もそれくらいの冗談は言うはず。
それにしても、紅炎をよく知る人たちは皆それを聞いて驚いているが、そんなに珍しいことなのだろうか。
確かに、自分もあの時驚いたのは事実だが、そんなに衝撃的だった訳ではない。
黙り込んだ莉蘭の様子をどう捉えたのか、紅玉は話を続けた。
「お兄様が今まで歴史書以外に興味を持ったなんて話、聞いた事無かったんですのよぉ。」
その説明を聞いて、だからあんなに驚いていたのか、と莉蘭は納得した。
と言うかさせた。
要は皆、紅炎が莉蘭に興味が有ると思っているらしい。
確かに何かと揶揄っては来るし、実際に本人からも言われたが、それはきっと自分が王族らしくないから面白いだけだろう。
そこに恋愛的な感情は含まれていない。
そう考えるといろいろ納得がいく。