第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
莉蘭は挨拶を終えた紅炎と共に席に着くと、短く息を吐いて気を引き締めた。
自分の本当の仕事は此処からなのだ。
式は飽くまで形式的なもの。
ここから先の宴は挨拶にやって来る両家の親族との挨拶の時間。
挨拶をして一言二言交わし、また次の人と挨拶を交わす。
これの繰り返し。
単純だがこれが一番疲れる。
莉蘭の家は元々少数で来ていて直ぐに終了したのだが、紅炎の場合親族だけでなく家臣の人達も含まれる為、人数が凄まじく多い。
それに加え、親族は皆王族と言うお墨付き。
正直言って、ぼろが出ないかどうか心配でならなかった。
「兄王様、この度はご結婚おめでとうございます。」
そう言って現れたのは物静かな雰囲気の漂う練家の二男。
名を練紅明。
この人は何と言うか、礼儀正しいが何処か抜けてそうな感じの人だ。
…服が少し乱れているからだろうか。
「この人が兄王様の奥さんなんだぁ。」
紅明に続いてやって来たのは、少し背が低めの少年。
ピンク色の髪は羨ましい程さらさらしていて綺麗で、短い前髪は所々三つ編みにしている。
誰だって一瞬女の子に見えるだろうこの人の名は、練紅覇。
練家の三男だ。
莉蘭は二人に丁寧にお辞儀をすると、「本日はお越し頂き、誠に有難うございます」と言って微笑んだ。
「へ〜何か王族の娘って感じじゃないね。」
「その様ですね。」
紅覇の言葉に莉蘭は一瞬顔が強張る。
紅明はあまり興味無さそうにしているが、紅覇は興味津々な様で、物凄く近くまで寄って来ていた。
「僕はこの人好きだな。」
紅覇はそう言ってにっこりと微笑んだ。
「あ、有難うございます。」
何か下手をした訳では無い様だが、これはこれで凄く照れる。
今の莉蘭は微笑むのが精一杯だった。
そっと紅炎を見ると、「お前にはやらんぞ」と言って紅覇を睨んでいる。
その姿は少し威嚇している様にも見えた。
______何でこの人はこう…あれなんだ。
莉蘭が思わず苦笑いしながら紅明達を見ると、二人は驚いた顔で紅炎を見て固まっていた。
不思議に思って紅炎を見るも、本人は少しも気にしていない様で、既に違う方向を見ている。
紅明は紅覇に目配せするとその場をそそくさと退散して行った。
(何だったんだろう…)
宴は月が昇っても続いたのだった。