第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
式の時間の少し前になり、莉鎧と莉駿は部屋を後にした。
二人共名残惜しそうにしていて、放っておけば何時までも此処に居座りそうだったので、莉蘭は「後で幾らでも会えるから」と言って二人を追い出した。
それでも未だ気掛かりなのか此方を見て心配そうにしていて、「自分は愛されてるんだなぁ」と実感する。
その後暫くして女官の人が部屋まで迎えに来て、その人に続いて莉蘭も部屋を後にした。
______いよいよ本番だ
式場までの廊下では頭に掛けられたヴェールの向こうをぼんやりと見ながら、何時に無く高鳴っている鼓動を必死に抑えていた。
何せ結婚式など初めての経験なのだ。
緊張するなと言う方が無理な話である。
莉蘭は控えの位置に着くと、静かに深呼吸してお淑やかモードに入った。
これはここ数日の稽古の賜物だ。
______大丈夫、段取りは完璧に頭に入ってる
莉蘭は紹介を受け入場の合図があると式場へと足を踏み入れた。
ゆっくりと紅炎の側まで歩き、隣まで来たところで一旦止まる。
此処で花婿が花嫁のヴェールを取るのだが、何故か紅炎は外しきる前に止まってしまった。
予定には無い出来事に、莉蘭は少々動揺する。
「紅炎様?」
莉蘭が小さく尋ねると、紅炎は我に返って残りの部分を取り払った。
何かに驚いていた様だが、何か変な処でも有ったのだろうか。
莉蘭は不思議に思いながらも、何事も無かったかの様に式を続けた。
正面を向きゆっくりとお辞儀をすると、体勢を元に戻して一歩後ろに下がる。
その後は紅炎の仕事だった。
莉蘭は澄まし顔で話を聞くだけ。
紅炎も決められた台詞を述べるだけだ。
式の間、花嫁は殆ど、と言うよりは全く話さずに終わった。