第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
然し次の日、莉蘭は朝から忙しかった。
起きて直ぐに沐浴をして簡単な白い衣装に身を包むと、朝食のお粥を食べる。
この時のお粥は何の味付けもしていないシンプルなものだった。
その後は式本番の衣装に着替え、手伝いの人の手によって髪も綺麗に整えられていった。
丁寧にハーフアップされた髪に髪飾りを付け、きちんと化粧を施す。
鏡に映った自分は別人の様だった。
衣装は白をベースにした所々青い刺繍の入った物を選んでいたので、それに合わせてか化粧は薄めであまりしつこくないものになっている。
髪飾りは紅炎から貰った物で、金色が黒髪によく映えていた。
鏡の前で一周回って見る。
気がつくと何時の間にか微笑んでいた。
「よく似合っているよ。」
式の前に部屋を訪れた莉鎧がそう呟くと、莉蘭は静かに笑った。
皮肉なものだと思った。
これは政略結婚で、元を正せば国の存亡がかかった結婚式。
所詮は差し出された人質。
形式的な結婚。
それなのに、今の自分は晴着を着て幸せそうに笑っているのだから。
父と共に来ていた莉駿と目が合うと、彼は至極真面目な顔をしていた。
「俺は、お前が幸せになれると信じてるよ。だから敢えて言おう。…おめでとう。」
「兄様…」
そう言って微笑む兄に、莉蘭は思わず涙が出そうになった。
______『幸せ』になれるのかな
莉蘭は未だ紅炎を信用してはいないし、信頼もしていない。
然し、今こうして親子で笑い合って居られるのはやはりあの人のお陰なのだろう。
そう思うと少々複雑な気分だが、感謝せざるを得ない。