第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
莉蘭がそんな努力をしているなど露知らず、目に見えて狼狽えている目の前の少女を紅炎は黙って見ていた。
その視線に耐えきれなくなった莉蘭は思わず声を上げる。
「あ、あの!」
「ん?」
「紅炎様は、私のことがお嫌いなのではないのですか。」
莉蘭の問いに対し、紅炎は何食わぬ顔をして「寧ろ逆だな」と言った。
その言葉に莉蘭は益々混乱する。
「逆」とは一体どの方向で逆なのだろう、と考えることは本能が拒否していた。
「な、何故です?これは只の政略結婚でしょう。」
もう自分が何を言っているのか分からなかった。
只、混乱している今の状況が良くない事は理解出来る。
このままではまた何を仕出かすか分からない。
莉蘭の問いに、紅炎は「結婚は結婚だろう」と言うと、ゆっくりと近づいて来た。
じりじりと迫って来る紅炎に、昼間の出来事が脳内に蘇る。
それと同時に危機感を覚えた莉蘭は、紅炎と同じ分だけゆっくりと後退した。
然し所詮は部屋の中。
混乱している上に注意が全て紅炎に向いていた莉蘭は後方に気が回らず、ベッドの淵に脚を取られてそのまま後ろに倒れた。
「うわぁっ⁉︎」
思わず間抜けな声が漏れ、しまったと後悔する。
倒れた体はベッドが綺麗に受け止めてくれた為痛くはないが、何故こうも自分は鈍臭いのだろうと恨めしく思えた。
気がつくと紅炎は莉蘭の顔の横に両手を付き、片膝を太腿の横に置いて莉蘭の上に跨っていた。
いよいよ本格的に危ない。
「な、何するんですか!離れて下さい!」
もう形振りなど構っていられなかった。
先程の後悔は何処へやら。
言葉遣いなど頭に微塵も残っていない。
莉蘭は力一杯紅炎を押し返した。
然し抵抗も虚しく、腕を抑えられて身動きが取れなくなる。
今日ほど自分が女である事を呪った日は無いだろう。
こうもあっさりと組み敷かれてしまうとは、我ながら情けない。