第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
紅炎は建物の中に入ると真っ直ぐに莉蘭の部屋へ向かった。
そんなに距離も無い為、着くまでにそう時間は掛からない。
莉蘭は部屋に入ると、肩を抱き寄せていた手から直ぐさま逃れ、正面に向き直って紅炎を睨んだ。
兄の手前我慢していたが、何時までも肩を抱かれていているのは流石に抵抗がある。
「そんなに私を揶揄うのが面白いですか。」
紅炎を真っ直ぐに見つめる瞳には怒りが宿っていた。
「何をそんなに怒っている。」
「何を?今申し上げたでしょう。」
煌帝国は深蒼側が断れば即座に侵略しようとしていた国だ。
その証拠に、国にやって来たのは金属器を複数持つと聞く紅炎と、その部下。
例え人数が少ないと言えど、兵力の規模が小さいこの国を滅ぼすには十分な戦力だ。
その気になれば何時でも潰せる。
今回の結婚はそれらを止める為であり、飽くまで有利なのは煌帝国側。
その第一皇子である紅炎が、所詮交渉で差し出された娘を「幸せにする」など、揶揄っているとしか思えなかった。
「俺は別に揶揄った積もりはないぞ。」
「なっ⁈」
「彼奴が、俺と結婚する事が不幸せだと言っている様に聞こえたのでな。少し灸を据えてやったまでだ。」
莉蘭は______そんな事であそこまでするか普通⁉︎______と喉元まで出かかった言葉を必死に飲み込んだ。
我慢し過ぎて窒息してしまいそうになる程だ。
いろいろと突っ込み処が多過ぎる。
要は莉駿の発言が気に入らなかった、と言う事だろう。
この人はいい歳して案外子供みたいな面も有るようだ。
その後も紅炎は至って普通に話していた。
然しその内容は莉蘭にとって赤面する様なものばかり。
その為、その後も様々な言葉が思い浮かび言ってしまいたい衝動に駆られたが、莉蘭は全て理性だけで堪えていた。