第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
紅炎は自分を嫌っているものだと思っていたのだが、違ったのだろうか。
そもそも、この人そんなこと言う顔じゃないだろう。
じっと顔を見ていると、その視線に気づいた紅炎と目が合う。
その瞬間肩を掴まれて引き寄せられていた。
「え、あの、紅炎様?」
わたわたと慌てていると再び目が合い、その瞬間に紅炎はふっと微笑む。
不覚にもそれにときめいてしまっている自分が居た。
「安心しろ。悪いようにはせん。」
その言葉は莉蘭ではなく、兄莉駿に向けられていた。
莉駿は紅炎を暫く見つめると、何かを感じ取ったのか丁寧に体を折り曲げてお辞儀をする。
そしてよく通る声で言い放った。
「妹を、莉蘭を宜しくお願いします。」
「兄様⁉︎」
莉駿のちょっとした裏切りに、莉蘭はまたしても悲鳴染みた声を上げた。
莉駿の言葉に満足したのか、紅炎は「どうだ」としたり顔で此方を見てくる。
表情は殆ど変わっていないのだが、莉蘭からして見ればそう言っているも同然だった。
紅炎は体の向きを変えると莉蘭を連れて屋内へと戻って行った。