第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
そもそも、莉駿は弱い訳ではない。
武術も王宮内では群を抜いて一番だ。
それらは毎日の鍛錬の賜物であり、努力の結果以外に他ならない。
ただ紅炎の実力が莉駿を超えていた。
それだけだ。
莉蘭は敢えて何も言わなかった。
これは武官同士の、男同士の話だと思ったから。
紅炎の作り出した厳格な空気がその場を支配していた。
然し、その真剣な雰囲気に水を差したのも紅炎であった。
「それに、今回の事で此奴が幸せになれないなど、誰が決めた。」
「……え?」
一体何の話だろうか、と思った。
今は莉駿の話をしていた筈だ。
如何してそこで私の話が出てくるのだろう。
莉蘭は紅炎が何を言いたいのか掴めず、その顔を見つめた。
莉駿も分かっていない様で、ぽかんとした表情で紅炎を見ている。
暫く考えても埒が明かないので、莉蘭はその事を視線で紅炎に訴えかけた。
「俺が此奴を貰い受ける以上、きちんと責任は取る。」
紅炎は真顔でそう言った。
如何やら戯言を言っている訳ではないようだ。
暫くの間、考える為の沈黙が降りる。
然しいくら考えても答えは出てこなかった。
表現が遠回し過ぎて何が言いたいのかさっぱりだ。
「あの、紅炎様、お話が見えないのですが。」
莉蘭が恐る恐る尋ねると、紅炎はむっとした表情で此方を見た。
…何故そんな顔をする。
「分からんか。俺がお前を幸せにしてやると言っている。」
「……えぇっ⁈」
紅炎の発言に、莉蘭は一瞬きょとんとした後悲鳴にも似た声を上げていた。
莉駿も驚きを隠せない様で、目を見開いたまま固まっている。
その様子を見た紅炎は、何故そんなに驚くと不思議に思っている様だった。