第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
誰が見ても莉駿の劣勢は明らかだった。
体格の差も有るのだろうが、莉駿は目に見えて疲労している。
そんな時だった。
紅炎は莉駿の一瞬の隙を突いて剣を跳ね上げ、弾き飛ばした。
然しそれだけでは止まらず、更に追い討ちを掛けるかの様に剣を振り降ろす。
そのままでは確実に莉駿は死んでいただろう。
然しそれは寸前で受け止められた。
キーンと響く金属音がそれを物語っている。
「ほぅ、矢張り貴様は面白いな。」
紅炎はにたりと笑ってそう言った。
そこに居たのは兄の莉駿ではなく、短剣を持った莉蘭だった。
莉駿が危ないと思った瞬間、考える間も無く莉蘭は飛び出していた。
紅炎と莉駿の間に滑り込み、懐に入れてあった短剣で紅炎の剣を受け止める。
流石は前線で戦う武将だ。
その一撃は想像以上に重かった。
腕が悲鳴を上げている。
「っ、紅炎殿、剣をお引き下さい。此方が条件を呑む以上、闘う理由は無い筈です。」
莉蘭は必死に冷静を装っていた。
腕は力に耐えきれず震えている。
紅炎はふっと鼻で笑うと剣を収めた。
莉蘭も短剣をしまうと兄に向き直る。
「兄様、大丈夫ですか。」
「あぁ…」
莉駿は立ち上がると、衣服を整えて紅炎に向き直った。
その目には怒りが滲んでいる。
「所詮貴様はその程度だ。妹を守るばかりか、守られている。」
その言葉に莉駿の表情が悔しそうに歪んだ。
「悔しいか。ならば強くなれ。誰かに守られるのではなく、守る為に。」
莉蘭はただ見守った。
紅炎の言葉は今の莉駿にとって重いものだろう。
然し、莉駿もそれらを受け止めていた。