第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
暫くの間の沈黙。
その瞬間は時が止まったかの様な感覚だった。
然しそれは何時までも続かなかった。
突然扉が開き、そこから人が入って来る。
ノックも無しに誰だと其方を見遣ると、そこに居たのは紅炎だった。
「紅炎様…」
予想外の人物に莉蘭は思わず名前を呼んでいた。
紅炎はちらりと此方に視線を向けるも、直ぐに莉駿に移して話し始める。
「男がくよくよ泣くな。力が欲しいなら自分から掴みに行けばいい。ただ待っているだけでは、何も手に入らん。」
そう言った紅炎の声は少し苛立っている様に聞こえた。
「……聞いてたんですか。」
莉蘭は半分呆れながら小さく呟いた。
何時から居たのかは知らないが、きっと空気を読んで今まで入って来なかったのだろう。
なんならいっそのことそのまま帰ってくれても構わなかったのに、という言葉は心の中だけに留まった。
紅炎は莉駿の腕を掴むと、「来い」と言って外に引っ張って行く。
慌てて追いかけると、ちょうど莉駿が中庭に放り投げられていた。
「立て。」
紅炎が威圧感たっぷりに命令する。
然し莉駿はそれに従わず、目だけで紅炎を睨んだ。
それを見た紅炎が嘲笑の笑みを浮かべる。
「一人前に楯突くか。そんな暇が有るなら剣を取れ。俺に勝てたら、今後この国には手を出さんと誓おう。」
「何?」
紅炎は明らかに挑発していた。
普段の莉駿なら穏便に事を済ませただろう。
だが内容が内容なだけに、それも儘ならなかった様だ。
莉駿は立ち上がると、腰に差してあった剣を引き抜いた。
紅炎も剣を抜き、向き合って構える。
まるで決闘の様な光景に、莉蘭は何も出来なかった。
一体全体、如何してこうなった。
脳内は混乱を極めている。
然しそんな事は関係無かった。
どちらとも無く闘いは始まり、中庭中に金属音が鳴り響く。
剣と剣がぶつかり合う音が響く中、暫くの間莉蘭は呆然と立ち尽くしていた。