第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
昼食の時間になってやっと、家臣の一人が部屋を訪れる。
控えめのノックに扉を開け一言二言交わすと、莉蘭は部屋を後にした。
客間までの間、莉蘭は心を空っぽにして歩いた。
下手な事を考えて失礼はしたくない。
勿論それは自分の為などではなく、国や父を思ってのことだ。
莉蘭は扉の前で大きく深呼吸すると、ノックをして扉を開いた。
「失礼致します。蒼莉蘭、只今参りました。」
そう言って莉蘭は袖を合わせ挨拶をする。
莉鎧は立ち上がって莉蘭の側まで寄ると、腰元に軽く手を添えて紹介をした。
その手がまるで頑張れと言っている様で、少し勇気付けられる。
それだけで今日一日は大丈夫な気がした。
「紹介致します。私の娘、この国の第一皇女の莉蘭です。」
莉鎧がそう言うと、赤と黒が印象的な男は立ち上がり莉蘭の側まで歩み寄る。
近くで見てみると大変逞しい体つきだった。
策士でありながら前線でも戦うと言う噂は本当の様だ。
「ほう、見た目はそれ程悪く無い。俺は練紅炎。煌帝国第一皇子だ。この度其方を身受けする事になった。」
身長の差か、それともこの人の物言いか。
練紅炎の第一印象は「偉そうな奴」だった。
実際に偉いのだが、何だか嫌味な気がして好きになれない。
それでも莉蘭はにこりと微笑んだ。
「紅炎様。不束者ですが、何卒宜しくお願い致します。」
そう言って莉蘭は頭を下げる。
紅炎はふんっと笑っただけで、特に何も言わなかった。
______本当に、一々感に触る人だ
思わず口に出しそうになり、慌てて理性をフル稼働しして耐えた。
顔は引き攣っていないだろうか。
「紅炎殿、そろそろ昼食のお時間になりますが、お召し上がりになられますか?」
「そうだな、いただこう。」