第3章 その娘、王族にて政略結婚を為す
「…承知しました。」
莉蘭はそう言うと、柔らかく微笑んだ。
「良いのか?」
随分とあっさりと承諾した莉蘭に、莉鎧は少し驚いている様だった。
心なしか声も震えている。
良いも何も、戦争を避ける為にはそれしか方法は無い。
結婚を断るという事はこの国が滅びる事と同義だ。
大好きな家族が、この国が、無くなってしまう。
______そんなことさせはしない。
「何故父様の方が泣きそうなんです?」
莉蘭がそう尋ねると、莉鎧は更に泣きそうな顔になった。
この言葉は莉蘭にとって今出来る精一杯の仕返しだった。
国の為に自分が何か出来るならそれは喜ばしい事だと思う。
然し莉蘭も年頃の娘。
不満が無い訳ではないのだ。
これくらいは許して欲しい。
莉鎧は組んでいた手を額に付けると、俯いた姿勢のまま小さく「すまない」と言った。
その姿はまるで許しを請うている様に見えた。
「誰も父様を責めることなんてしませんよ。国民も、私も。」
その言葉に、莉鎧は顔を上げる。
その悲しみを宿した瞳と視線が合うと、莉蘭はもう一度柔らかく微笑んだ。
それに釣られて莉鎧も微笑む。
「…すまない。少し弱気になり過ぎた。」
莉鎧はそう言って席を立ち、莉蘭の側まで寄ると力一杯抱きしめた。
莉蘭もそっと背中に腕を回し抱きしめ返す。
先程は細やかな仕返しをしたが、別に恨んでいる訳ではない。
きっと父もそれに気付いている。
「父様、莉蘭は今とても嬉しいんです。この国の、父様の役に立てるんだから。これ以上の親孝行は無いでしょう?」
莉蘭はそう言ってふふっと笑う。
莉鎧は暫く黙っていたが、静かに「そうだな」と呟くと、腕を解いて真っ直ぐに娘を見た。
そこに居たのは幼かった頃のあどけない少女ではなく、王の娘としての使命を果たさんとする一人の皇女だった。
「すまない、お前もすっかり大人になったな。」
「父様が知らないだけで、私は日に日に成長してるんです。それに、先程から謝り過ぎですよ。今ので謝るのは最後にして下さい。」
「…そうだな。ありがとう。」