第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
「わ、分かってますよ…それで、何故ですか?」
「足が痛いから抱き上げろと言われたのでな。騒がれるのも面倒だったからしてやったまでだ。」
「…へ?」
余りにもあっさりと言うものだから、思わず「それだけ?」と言いそうになった。
だってそうだろう。
あの炎帝と称され畏れられている彼が、女の我儘に付き合ったというのだろうか。
無愛想で、歴史や戦以外に興味が無く、傲慢な彼が。
正直言って信じられない。
どんな事情があったのかは分からないが、天変地異でも起きるんじゃないだろうか。
「不思議そうな顔をしているな。俺が他人に従うなどあり得ないか?」
「それは、その…」
そう言い淀むと、紅炎はふんっと鼻で笑って「まあいい」と言った。
「俺は答えたぞ。次はお前の番だ。」
「えっ、」
そう言えばそんな約束をしていたのだった。
ちらっと見ると、紅炎は感情の読めない視線を此方に向けていた。
それが早く答えろと圧力を掛けてくる。
「えっと〜未だ分かr」
「分からないは無しだ。」
「……。」
惚けようとしたのが暴露ていたのか、紅炎は声を被せてそう言った。
これは逃げられそうにない。
今まではそれがどういった感情なのかという事から目を背けてきた。
彼を認めるのが嫌だというのもあったけれど、「意味の無い事」だと考えていたから。
元々良い印象ではなかったし、肩書きだけの婚姻だったから、自分には殆ど関わりの無い事だと思っていた。
然し実際此方に来て既に数ヶ月が過ぎ、彼と一緒に過ごす間に生まれた感情。
これから先も共に居ると言うのなら、この気持ちをはっきりさせておきたい。
と言うか、今答えを出さないと殺されそうな勢いで紅炎は此方を睨んでいた。