• テキストサイズ

マギ 〜その娘皇子の妃にて〜

第5章 その娘、妻と成りて恋を知る


紅炎は背中側から身を乗り出し、反対側に手をついて此方を覗き込んでいた。
お陰で逃げ道がなくなり、視線を外す以外に逃げる方法が無くなる。
目を逸らした莉蘭を他所に、紅炎はそのままの体勢で話し始めた。

「俺は寧ろさっさと帰れとさえ思っていたが…如何やらお前には楽し気に見えた様だな。」

紅炎の物言いに少し驚いた。
まるで不本意だったとでも言いたげだ。
それにしてはあの女性の方は楽しげに燥いでいた様だが。

「さっさと…何故です?」
「あの女は五月蝿くて好かん。加えて己の身内の恥を晒す能無しだ。俺の役に立たん奴は要らん。」
「そ、そこまで言わなくても…」

紅炎の性格は知っているが、そこまで言われると流石に相手が可哀想だ。
この人のこれは悪態を吐いているのではなく、心底思っているから質が悪い。

もしかして機嫌が悪かったのは本当にあの女性の所為なのかも知れない。
然し、例え紅炎が本当にそう思っていたのだとしても、彼が彼女を横抱きにしていた事実は変わらない。
普通、 好かない相手を横抱きになどするだろうか。

「…じゃあ如何して、あの人を横抱きにしてたんですか。」
「羨ましかったのか?」
「違います。」

そう即答すると、紅炎はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
また何か企んでいるのだろうか。

「知りたいか。」
「……は、ぃ」

紅炎は何も言わずただ微笑みながら此方を見下ろしていた。
普段は珍しい紅炎の微笑みも、今は全く有り難みを感じない。

「一つ条件がある。」
「な、何ですか?」

『条件』という単語に、心臓が大きく跳ねる。

「認めろ。貴様は俺に惚れているのだろう?」
「ぇ、…えっ⁉︎」

待て待て待て、一体全体何がどうなっているんだ。
認める?
紅炎に惚れていると?
未だ本人もよく分かっていないのに?

…そんな馬鹿な話があるか。

然し条件を飲まない限り、紅炎は教えてくれそうになかった。

因みに、聞かないという選択肢は無い。

「…お、教えてくれたら、答えます。」
「何?」

ちらっと見上げると、紅炎は眉を寄せて真剣に考えている様だった。
暫くすると紅炎は不服そうに「いいだろう」と言って座り直す。
意外にあっさり引いたことに驚いて振り返ると、彼は此方を見てにやりと笑って言った。

「ちゃんと答えろよ。」

その綺麗な顔に、背筋がぞくりとした。
/ 121ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp