第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
紅炎は仕方が無いといった顔をした後、何も言わずにベッドから降りた。
莉蘭も起き上がろうと力を加えるが、全くといっていい程力が入らない事に気付く。
「如何した。」
「……力が、入りません…」
「…………。」
紅炎は信じられないとでも言いたげな表情で此方を見ていた。
自分でも情けないと思うが、無理なものは無理なのだ。
紅炎は黙って莉蘭の脚の裏と肩の下に腕を入れると、持ち上げてベッドの上にきちんと寝かせた。
紅炎はそのままベッドの端に腰掛ける。
「で、何があったんだ。」
「え?……あぁ」
一瞬何の事を言っているのか分からなかったが、直ぐに思い至った。
何故泣いていたのかについて、だったか。
いろいろ衝撃的な事が起こったからすっかり忘れていた。
「……言いたくありません。」
「ほぅ。ではこのまま続きをするか。」
「嘘です嘘です!言いますから!」
「…さっさと話せ。」
卑怯だ。選択肢なんて無いじゃないか。
と、内心で文句を言いながら何とかして紅炎に背を向けると、先程の出来事を話し始めた。
「……紅炎様と……が、…………で、その後」
「聞こえん。もっと大きな声で話せ。」
「ゔ。…紅炎様と女性が仲良さそうにしているのを見かけて、その時白瑛さんに偶々会って、そしたら何故か勝手に、涙が、ですね……」
「…その後は如何した。」
「その後は、白瑛さんの部屋で暫く話して、紅覇さんの所でも少し話をしました。」
そこまで言うと、紅炎は「成る程な」と言って話を終わらせた。
何故先程白瑛と一緒に居たのか合点がいったというところか。
「横抱きにならお前にもしたことが有るだろう。」
「え、何時ですか?」
「お前が倒れた時だ。ジュダルと闘って気を失ったお前を運んだのは俺だからな。」
「し、知りませんよそんなこと!」
そう言えばあの後そんな話を聞いた様な気もする。
全く覚えていないが。
然し記憶が無くても案外恥ずかしいもので、態と顔を背けていたのに、紅炎は何故か此方を覗き込んできた。
その顔は何処か楽しそうだ。
「何ですか?」
「いや。今どんな顔をしているのかと思ってな。」
「っ⁉︎」
この人は本当に、何処までも意地の悪い人だ。
人が恥ずかしがっている顔を見て何が楽しいんだか。