第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
「いい加減放して下さい!」
「……そこまで嫌か?」
「そう言う問題じゃありません!」
何時までも抵抗を続ける莉蘭に紅炎は一度溜息を吐くと、更に体勢を低くした。
「んんっ⁉︎」
視界一杯に紅炎が映る。
一瞬の出来事に思わず体が強張った。
紅炎は顔を離すと「やっと大人しくなったか」とにやりと笑う。
そしてもう一度口付けた。
今度はぎゅっと目を閉じる。
紅炎は何度か繰り返し口付けると離れていった。
「おい。力を抜け。」
「へ?んんっ⁉︎」
喋ろうとして開いた口に、紅炎は再び口付け舌を差し込んだ。
その熱と感触に思わず体が跳ねる。
チュ、チュ、と時折音が聞こえ、その度に羞恥心が煽られた。
人の話は最後まで聞いて欲しい。
「ん、けほっけほっ、はぁ……」
「……普通息は鼻でするだろう。」
「し、知りませんよ、けほっ、そんな事」
何せ初めての体験なのだ。
右も左も分からない状態でいきなりキスをされて、莉蘭はこれ以上は無いと言う程困惑していた。
先ず息が出来なくて苦しいし、背筋がぞくりとして力が抜けていく感覚も落ち着かない。
体は熱を持ち始めるし、視界が滲んで物が見えずらかった。
「少ししただけでそれか。」
そう言うと紅炎はくくっと笑う。
「仕方無いでしょう……初めて、なんですから…」
最後の方はぼそぼそと小さな声だったが、紅炎は「それは良い事を聞いたな」とにやりと笑った。
「良い機会だ。今の内に練習するか。」
そう言うと、返事をしてもいないのにまた再開し始めた。
未だ承諾していないし、落ち着くまで少し待って欲しいのだが、そんな事は御構い無しだ。
一応気を使って息をする間を作ってくれているのか、今度はゆっくりとした丁寧な動きだった。
莉蘭はその隙を見つけては魚の様に呼吸を繰り返す。
「ん…はぁ……ちょっ、う…」
どれくらい経ったのか、既に抵抗する力も無く、莉蘭は大人しくなっていた。
紅炎は押さえ付けていた手を放すと、莉蘭の頭を撫でる。
暫くして顔が離れる頃にはすっかり息が上がり、意識も朦朧としていた。
「も、もう……」
「何だ、その気にでもなったか。」
「ち、違います!」
「では何だ。」
莉蘭は少し躊躇った後、小さな声で呟いた。
「これ以上は、心臓がもちません…」