第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
「え?」
急に体が傾き、視界に 天井が写り込む。
莉蘭は自分の身に何が起きたのかが理解出来ず、目を何度も瞬かせた。
すると、丁度真上に紅炎が顔が現れる。
「あの、これは如何いう事でしょうか。」
尋ねてみたものの、返ってきたのは背筋も凍る様な綺麗な笑顔。
残念な事に嫌な予感しかしない。
背中に感じる柔らかで弾力のあるこの感触は確実にベッドだ。
紅炎に気を取られていて何処に座ったのかちゃんと認識していなかった。
まさかベッドに座っていようとは。
紅炎はベッドに片膝をつき、莉蘭の顔に横に両手をついていた。
______ああ、この光景は前にも見た事がある
現状を受け入れたく無いからか、速まる心臓とは裏腹に、頭は酷く冷静だった。
紅炎と出会ったあの日。
あの時は暗くてよく見えなかったが、きっとこんな表情だったに違いない。
紅炎は何を言うでもなく、ただ此方を見下ろしていた。
「一体何を…」
______する積りですか。と問う前に紅炎が口を開いた。
「貴様が答えぬと言うのなら、答えたくなる様にしてやろうと思ってな。」
その言葉と艶やかな表情に背筋がぞくりとした。
このままでは自分の身が危ない。
危険を察知した莉蘭は、体を捻って紅炎の下から抜け出そうと試みた。
然し肩を押さえつけられ、簡単に阻止される。
「は、放して下さい!」
突き放そうとした腕は捕らえられ、頭の上で一つにされる。
外そうと力を加えても女の力ではびくともしない。
「そう怯えるな。加減はしてやる。」
低く囁かれた声が何処か艶かしく、莉蘭は声にならない悲鳴を上げた。
腕を伸ばした所為で顔が幾らか近くなり、間近で見詰められて赤面する。
尚もじたばたともがく莉蘭に、紅炎は体勢を低くして体の動きを封じた。
鼓動が伝わるのではという程体がくっ付き、いろんな意味で慌てる。
「私は未だ貴方に気を許した訳じゃ!」
「そう色気の無い声で喚くな。外に聞こえても知らんぞ。」
そう言われて黙るほど可愛らしい性格ではない。
莉蘭は必死に抵抗を続けた。
そもそも、未だ日も落ちていないのに一体この男は何を考えているのか。