第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
部屋から出て来た紅炎は訝しげな顔をして此方を見ていた。
「えっとー…さ、散歩?」
「…………。」
はい、如何見ても信じてないですね。
と言うか信じられませんよね。
言った本人も信じてもらえるとは微塵も思ってません。
扉が開く前に逃げようとした所為か、非常に変な格好で発見されてしまった莉蘭は、他に良い言い訳を考えるべく口をパクパクさせた。
「おや、莉蘭殿に白瑛殿。二人してこんな所で何してるんですか?」
「…散歩、ですかね?」
「……聞かれても知りませんよ。」
「時間が有ったので、二人で散歩していたところなんです。」
莉蘭がどぎまぎしながら答えると、後ろから白瑛が何事も無かったかの様にそう言った。
流石は白瑛お姉様。
何と頼もしいことでしょう。
然し、そう思ったのも束の間。
「それでは莉蘭殿、私はこれで。」
白瑛はそう言うとくるりと向きを変え立ち去った。
「え、白瑛さん⁉︎ってうわっ!」
軽い裏切りに驚きながら後を追おうとすると、突然誰かに腕を掴まれ引き止められる。
嫌な予感がしながらも振り向くと、無言で真っ直ぐに此方を見ている紅炎が居た。
心なしか不機嫌なのは気の所為であって欲しい。
そのまま紅炎は何も言わずに歩き出し、捕まったままの莉蘭は引き摺られる形で連行された。
方向からして紅炎の部屋だろう。
書斎ではなく、私室だ。
「あの、紅炎様何を…」
「黙って付いて来い。」
そう言った声には苛立ちが滲んでいた。
気の所為では無い。
今の彼は機嫌が悪い。
______如何しよう______
何だかんだ言って今までこんな事は無かったから如何して良いのか分からない。
震える手が莉蘭の心の内を語っていた。