第5章 その娘、妻と成りて恋を知る
調査と張り切って部屋を出た二人は、何故か紅覇の自室へと辿り着いた。
まあ何故と思っているのは自分だけなのだが。
「紅覇殿、居られますか。」
軽くノックして返事を待つと、直ぐに従者の人が出てきた。
白瑛が用件を伝えると、中から本人が現れる。
「はいはーい居るよ〜ってうわっ…莉蘭如何したの?その目。」
「いえ、ちょっと…」
返答に困って苦笑いをすると、紅覇は「痛そうだね〜」と何時もと変わらぬ調子で言い、腫れた目元にそっと触れた。
その触れ方からは労わりの気持ちが伺える。
「その事も説明するので、宜しいですか?」
白瑛がそう尋ねると、紅覇は快く中に通してくれた。
莉蘭の状態から何か察したのか、紅覇は手際良く人払いをするとかなり大きめのベッドへ上がる。
そして隣をぽんぽんと叩き此方を見た。
何も考えずに「お邪魔します」と言って上がると、そのまた隣に白瑛が座る。
______あれ、この配置、完全に退路断たれてる?
粗方の出来事は白瑛が説明してくれた。
紅覇は全て聞き終えると、頭を抑えて溜息を吐く。
莉蘭はその間中、何処か他人事の様に聞いていた。
多少尾鰭が付いている様だがこの際気にしない。
ぼんやりベッドを眺めていると突然頭を撫でられ、見ると紅覇がにこにこ笑いながら撫で繰り回していた。
「あの、何を…」
「よしよし、莉蘭は良い子だねぇ〜」
不思議に思って首を傾げる。
そうやって油断していると、何時の間にか質問の嵐が始まっていた。
「紅炎の事を如何思っているのか」とか、「この時は如何思ったのか」とか、「紅炎とは何処まで進んでいるのか」とか。
それはもう、人の羞恥心なんて全て無視して事細かく聞かれた。
これでは質問ではなく取り調べである。
終いに耐えきれなくなった莉蘭は、真っ赤になった顔を隠して小さく蹲ったのだった。
「も、もう勘弁して下さい…」
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その頃の紅炎はと言うと、
「やっと帰ったか。」
「はい。お疲れ様でした。何事も無く終わって何よりですね。」
「もう二度と会おうとは思わんがな。」
「……そんなにですか?」
自分の知らない所で何が起きているのも知らず、一仕事終えた余韻に浸りながら茶を飲んでいたのだった。