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マギ 〜その娘皇子の妃にて〜

第5章 その娘、妻と成りて恋を知る


今日は本当に忙しい様で、ジュダルは覆面の人達に急かされると「じゃあな」と言ってさっさと行ってしまった。
別段引き止める理由も無い莉蘭はそのまま笑顔で彼等を見送り、当初の目的通り中庭へと向かう。

すると、木々が揺れる音に混じって空気を割く鋭い音が聞こえてきた。
その音を辿りながら廊下を曲がると、丁度庭の中央辺りに人影が見える。

「あれは…」

そこに居たのは、槍を構え鍛錬をする白龍。
彼には朝から試合形式で手合わせをしてもらったのだが、そろそろ切り上げないかと伝えると、白龍はもう少しと言ってその場に残ったのだった。

「暇ならば鍛錬を続けていれば良かったのに」と、誰しも思うだろう。
何故それをしなかったのか。
答えは、莉蘭自身がその後の予定が何も無いというのを忘れ、いつも通りの時間で切り上げてしまったからに他ならない。
いやはや、慣れとは恐ろしいものである。
一度湯浴みまでしてしてしまうともう一度という気にはなれず、ぐだぐだと時間を潰し、現在に至る。

中庭には白龍以外の人影は見当たらなかった。
その所為もあるのか、やけに険しい表情をして槍を振るうその姿は、何処か危うい雰囲気を漂わせている。

「白龍さん…」

ポツリとそう呟くと、白龍は此方に気付き丁寧に礼をした。
莉蘭は微笑み返すと、軽く会釈をして中庭を後にする。

彼の、白龍の偶に見せるあの顔は、一体何を思っての表情なのだろうか。
普段は隠しているのだろうが、時折、殺気の様な物を感じることがある。
まあ、自分が立ち入って良い話ではなさそうなので今の処は触れる積りは無いが。

(さて、これから如何しようか。)

これといって行く当ては無いが、莉蘭は取り敢えずふらふらと歩き出した。
歩きながらふと、紅玉の事が頭を過る。
普段は部屋で暇していると、以前言っていた気がする。

「…行ってみるか。」

運良く暇ならいい暇潰しの相手になってくれるかも知れない。
歳が近いからか、彼女と居るのは純粋に楽しかった。

思い立ったが吉日と言わんばかりに、莉蘭は紅玉の部屋へと歩き始める。
一つ二つと廊下を曲がり歩いて行った。
然し、少しして目の前の光景に足を止める。

「え……紅炎様?」
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