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マギ 〜その娘皇子の妃にて〜

第5章 その娘、妻と成りて恋を知る


一方その頃の紅炎はというと、大臣の娘を相手に少々苦戦していた。

「それでですね、お父様が〜〜」
「……。」

対面して直ぐ、もっとお互いを知りたいという申し出から早速二人きりで話す流れとなった。
元々口数の少ない紅炎を心配した紅明が引き留めようと口を開いた瞬間、その隙すらも与えずに娘は紅炎を引き摺って庭へと出たのである。
この娘、中々度胸があるらしく、仏頂面の紅炎に少しも物怖じする事なく接してくる。
そして、此方が口を挟む間も無いくらいお喋りだった。

この女が件の娘。
如何にも貴族の娘ですと言わんばかりの出で立ちで、本当によく喋る。
喋るのは良いのだが、その内容が些か宜しくなかった。
内容がまるで一家の恥を晒すかの様な話なのである。
然も己の愚行に一切気が付いていない。
全く以って無知な人間だ。

「きゃっ虫が!」

そんな事を考えていると、女は突然紅炎にしがみ付いた。
ちらっと見てみれば、そこに居たのは小さな天道虫。
紅炎は溜息を吐くとしっしっと虫を追い払ったのだった。

「ありがとうございますぅ、紅炎様」
「……。」

女の媚びる様な声音に、紅炎は眉を顰めた。
然し此奴はその事にも気付いていないらしい。

「私虫は嫌いです。蝶々みたいに綺麗なのは好きですけれど。」

別に聞いてない、と言いかけて途中で止めた。

こんな時、彼奴ならどんな反応をするのだろうか。

そうやって思い浮かべたのはあの強気な小娘。
同じ王族なのに、育ちが全然違うのは何故なのだろう。

彼奴なら、例え虫が服に止まっても「あ、虫だ」とか言って自分で払ってしまいそうだ。

(有り得そうだな。)

そう思うと少し可笑しかった。

「紅炎様?如何かなさったんですか?」
「いや。」
「…紅炎様、私歩き疲れました。」
「??」

そう言って此方に腕を伸ばす女に、紅炎は訳が分からず眉を顰めた。
正直「だから何だ」と言ってしまいたい。
それに疲れるほど未だ歩いていない。

「抱っこして下さい。」

紅炎は内心で呆れ返った。
いや、寧ろ呆れを通り越して感心すら覚える。
未だ会って間も無い男に、然も皇子である自分相手によくそんな事が言えたものだ。
だがこれで部屋に戻れるなら寧ろ好都合な事かも知れない。

紅炎は深々と溜息を吐くと、女を横抱きにして元居た部屋へと引き返したのであった。
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